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231563 journal

phasonの日記: 30インチのグラフェンフィルム

日記 by phason

"Roll-to-roll production of 30-inch graphene films for transparent electrodes"

J.-H. Ahn et al., Nature Nanotechnol., in press (2010)

韓国の研究グループとSamsungの共同研究による,大面積グラフェンフィルムの作成に関する研究.一応飯島先生(いや,先生とか言うと怒られるけど)の名前も入ってるけど……何やったんだろ?説明とか読む限りではあまり積極的な関与はしてないっぽいけれど.

ディスプレイ分野で韓国勢が圧倒的なシェアを確保するようになって早数年,その立場を盤石なものとし,さらに高価格帯も完全に押さえるために各種材料開発に邁進していることは周知の通りである.
特に透明電極に関しては,広く使われているITOは資源面で供給不安や価格に対する懸念があるため,日本も含め各国で代替材料の開発が続けられている.層数の少ないグラフェン(注:本来は単層のもののにを指す語だが,最近は数層のものに対しても用いられる)はポストシリコンの電子材料としてだけではなく,導電性が高いと言う特性に加えその薄さからくる透過性の高さを持ち合わせることから,透明電極の代替材料の一つとしての研究も行われている.

元々,グラフェンは単結晶グラファイトを機械的にはがしていくことで容易に作れるようになり研究が進んだ.例えばグラファイトの両面にテープを貼ってはがす,と言う操作を繰り返すごとに厚みが半分(以下)に減って,最終的には単層のグラフェンを基板上に取り出すことができる,とかのあれですな.その後,グラファイトを溶液中で酸化してグラフェンオキシドにして平面性を無くしばらばらにして,その後基板上で還元することでグラフェンに戻す,などの手法で簡単に量産もできるようになった.
しかしやはりデバイスとして使うことを考えると,大面積かつ質の良いのグラフェンが必要となる.そのような場合,CVD(炭化水素系ガスをフローし,金属基板上で熱分解することでグラフェンが生成する)が用いられている.この場合弱点は,高温熱処理(通常1000 oC)が必要なため基板は耐熱性の高いものでなければならないこと,炭化水素を分解するために基板は触媒特性を持たねばならないこと,の2点である.このため,通常は遷移金属の単結晶基板などの上で熱分解することでグラフェンを作っている.

分解温度の低減に関しては,例えば富士通などの研究

http://pr.fujitsu.com/jp/news/2009/11/27.html

がある.こちらは,まあ,実際にはちょっとまだいろいろ問題があるのだがここでは述べない.

一方,基板が限られる問題に関しては,2009年のLiら(テキサス大とTIのグループ)による報告で大きな進展が見られた.

X. Li et al., Science, 324, 1312-1314 (2010)

彼らは,薄いCuフィルム上にCVDによるグラフェン膜を作り,それを他の基板に転写することでどのような基板上にも大面積グラフェン膜を貼り付けられる,と言う手法を開発した.この手法で作られるグラフェン膜はそのほとんどの場所で単層であり,かつキャリアのモビリティなどもかなり高い.

今回の論文ではこの手法をより量産レベルに近いところにまで持って行ったものである.著者らは直径8インチの円筒形の石英チューブ内にCuフィルムを貼付け,その上でCVDを行い取り出し,ポリマーフィルムと密着させた後に剥がす(いわゆるロール・ツー・ロール方式)という手法で,対角30インチにもなる巨大グラフェンフィルム密着PETフィルムを作成してのけた.さらにこの上にスペーサーパターンを印刷,電極を貼り付けてカットすることで抵抗膜方式のタッチパネルの動作も披露している.

*動作の様子のムービーが,Supplementary informationとして公開されている.
http://www.nature.com/nnano/journal/vaop/ncurrent/suppinfo/nnano.2010.132_S1.html

また彼らは,部分的に硝酸を吹き付けることでその部分を酸化/ドーピングしたり,と言う報告もしている.なお,得られたグラフェンシートのシート抵抗は未ドープ・1層で270Ω/sq,硝酸ドープで100Ω/sq程度であり,光透過率は単層ものが550nmで97.4%,吸収の一番大きな270nm付近で92%程度である.(当然ながら,層数が増えれば抵抗は減り,透過度は落ちる)

しかしまあ,グラフェンもずいぶんでかいものが作れるようになったものである.たいしたものだ.

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