tsuyaの日記: サラリーキャップの戦力均衡化機能
戦力を均衡化させる目的で全世界のスポーツリーグで採用されているシステムは、ドラフト制と、前々回紹介したサラリーキャップ、もしくは両者の組み合わせ、というケースがほとんどであろう。ヨーロッパのサッカーリーグの一部が採用しているサラリーキャップは選手の年俸の高騰を防止することが目的であって戦力均衡化は意図していない、とする向きがあるかもしれないが、財力を用いて富めるチームがそうでないチームよりも戦力を充実させることを諦めさせる制度を運営する以上、各チームはほどほどの戦力で戦い続けることを承知してリーグに参加しているはずで、少なくとも間接的には戦力を均衡させているといえる。
米国の主要プロスポーツリーグでは、多くがドラフトとサラリーキャップの両方を採用している。ただしMLBでは現状サラリーキャップを採用せず、代わりに贅沢税(luxury tax)制度を導入している。これは、総年俸の上限突破を完全には禁止しない代わりに、総年俸が高くなればなるほど多くなる額のリーグ機構への支払いを義務づける制度である。この制度では、特定のチームによる高年俸の選手の独占が不可能ではないが、巨額のコストがかかるので間接的には制約されるし、またリーグは徴収した贅沢税を貧しい球団に配分することで財力の均衡が図れるというメリットもある。したがって贅沢税も有力な選択肢だが、基本的にはサラリーキャップと同様の金額規制といえる。
米国以外の国のプロリーグではドラフト制の採用は多くなく、サラリーキャップはもっぱら単独で用いられている。こうしてみると、総年俸制約を用いずドラフト制のみで戦力均衡を図っているNPBは今や少数派といえる。各国にはさまざまな状況があって議論は単純にはならないが、少なくとも筆者の印象では、戦力均衡にはドラフトよりもサラリーキャップの方が有効に見える。したがってNPBもサラリーキャップを導入し、状況次第ではそれと引き換えにドラフト制を廃止してもよいのではないか、と筆者は考える。
ドラフト制は典型的な入口規制であり、獲得できる選手の質を保証する、いわば機会の平等をはかる制度である。したがってドラフトの高順位でリーグ入りした選手でも思ったほど活躍できなかったり、逆に低順位でもトップクラスの選手に成長したりというケースが年を経るにつれて現れてくるとその比重は戦力全体からみて下がっていく。さらに現実には、FA制や外国人枠によってより少ない制約で選手を獲得できるルートがあるので、ドラフトで得られる均衡は部分的なものでしかない。対するサラリーキャップは、シーズンごとの総年俸を制約対象とすることで各時点での戦力全体を間接的に規制する、いわば結果の平等をはかる制度である。だから、選手の加入先を直接的に制約するドラフト制の方が一見して強力なようでも、実際には間接的なサラリーキャップの方がチームにとっての自由度が下がるはずだ。筆者の目には、米国4大プロスポーツのうちもっとも規制の強いサラリーキャップ制を導入しているNFLに、弱小チームが有能な選手をトレードで獲得することにより強くなるチャンスを得る、というケースがもっとも多いように見える。反対に強くなったチームは、高額年俸の獲得が可能な有力選手を手放さざるを得ないことが多くなり、黄金時代を長く独占することが困難になっている。
もっとも、サラリーキャップはルールの詳細設計と運用次第で、得られる結果がいかようにも変わるのが難しいところだ。各リーグを見ると、総年俸上限といってもそれが文字通りすべての選手の年俸総額と定義されていないことが多く、戦力均衡化効果はリーグごとにまちまちだ。それは、ベッカム・ルールに代表される数々のご都合主義によるところが大きく、運営に政治色の強いNPBがサラリーキャップを導入しても期待通り戦力均衡の役立てられるか、疑問の余地は少なくない。そのような問題も含めて、引き続きドラフト制やサラリーキャップなどの各種制度の比較論を書いていこうと思う。
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