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siRNAでヒトの乳がん細胞の増殖を制御することに成功 7

ストーリー by Acanthopanax
二本鎖 部門より

MIYU曰く、"産業技術総合研究所ジーンファンクション研究センター多比良和誠センター長らの研究グループが、DNAの塩基配列として書き込まれている遺伝情報がRNAに転写され、タンパク質に翻訳される過程を妨害する「RNA干渉」によって、人間の乳がんの細胞の発生と抑制の両方の遺伝子の働きを停止させる事に成功しています(読売新聞の記事)。
ジーンファンクション研究センターでは、細胞内での干渉作用を持つ短い二本鎖RNAで、強力な遺伝子発現抑制機能を持っているsiRNA (small interfering RNA)を細胞内で安定的に発現させることが出来るsiRNA発現ベクターを世界に先駆けて作り出しています。また、ヒト細胞におけるマイクロRNAの標的を世界で初めて同定してもいます。
今回の発表は、人間の乳がん細胞に2種類のsiRNAを導入し、細胞の増殖を制御できることを確認した、ということだと思われます。この発見によって、がんを発生させる遺伝子の働きを抑える遺伝子治療法が開発されることが期待されます。"

追記( 2004/08/17 17:30 JST by O):どうやら後からでたプレスリリースによると、ここに書かれてのとはちょっと違うようだ。詳しくはコメント参照。

この議論は賞味期限が切れたので、アーカイブ化されています。 新たにコメントを付けることはできません。
  • 全然違う…… (スコア:4, 参考になる)

    by y_tambe (8218) on 2004年08月17日 11時13分 (#606610) ホームページ 日記
    いくら何でも、この読売記事はひどいよorz

    今回、NatureのAOP [nature.com]に出たのは 「Induction of DNA methylation and gene silencing by short interfering RNAs in human cells」 単なるsiRNAの話ではなくて、CpG islandをターゲットにしたsiRNAによってDNA methylationによるgene silencingを哺乳細胞で可能にしたという報告なのです。

    従来のsiRNAによる遺伝子発現抑制は、発現したmRNAに相補的なsiRNAが結合することでそのmRNAが分解され、結果として発現抑制されるという原理で、この実験系はノックアウト生物の代替手法としてほぼ確立された(されつつある)ものです。

    ある遺伝子の機能を明らかにしようと思ったら、(1)その遺伝子がない細胞に発現させるとどうなるか、(2)その遺伝子がある細胞でつぶすとどうなるか、の両方を少なくとも調べる必要があります。後者を調べるためのもっとも直接的な実験は遺伝子組換えによるノックアウト生物作成なのですが、時間と手間がかかる上に確実に作れるとは限らなかったのです。そこにRNA干渉という現象が見つかったことで、より手軽に遺伝子発現抑制実験が可能となり、飛躍的にいろんな知見が得られるようになったわけです。もはや「やって当たり前」の実験の一つと言ってもいい。だから、元記事にあるように「人間の乳がん細胞に2種類のsiRNAを導入し、細胞の増殖を制御できることを確認した」なんて記事だったなら、新規のがん遺伝子を見つけたということでもない限り、Natureに載ることはまずないでしょう。

    そうではなくて、今回の論文を要約すると「CpG island(DNAのメチル化されやすい領域)を標的にしたsiRNAの導入によってmRNAの発現そのものを抑制的に制御しているDNAメチル化という別の現象を誘導することに成功した」ということがポイントなのです。

    つまりsiRNAを用いた手法として、(1) 転写されるmRNAに相補的なsiRNAでmRNAを破壊する だけでなく、(2) CpG islandを標的としてmRNA発現そのものを起こらなくする、という、別のメカニズムによる遺伝子発現抑制が可能であるということを明らかにした論文なのです。これによって、より効果的な遺伝子抑制実験系が出来ることになるでしょうし、またもしかしたら近年注目されているminiRNAなどの細胞内での生理的役割を解き明かす手がかりになるのかもしれません。
    • by MIYU (17727) on 2004年08月17日 13時56分 (#606669)
      お読みになった皆様方にも、非常に申し訳ないです。
      もっとも、コメント部分まで読まれる方々には、y_tambe氏 [srad.jp]のコメントのおかげでなんら影響は無いと思いますが。

      産業総合研究所のプレスリリース [aist.go.jp]

      以上の結果から、任意のCpGアイランドを標的としたsiRNA/shRNAを設計することで人為的にDNAメチレーションを誘導でき、転写レベルでの遺伝子発現を特異的にコントロールすることが可能になった。

      メチル化
      DNAやヒストンのメチル化により特定の遺伝子の発現を抑制できる。例えば、ガン遺伝子のメチル化によりガン細胞の増殖を抑制できる。
      DNAメチル化
      通常メチル化されていないCpGアイランドのCpG配列のシトシンの5位がメチル化される現象。CpGアイランドのメチル化でプロモータの作用が阻害される。刷り込み遺伝子、X染色体の不活性化、染色体のリモデリングなどに深く関与する。この現象は不死化した細胞や形質転換細胞で頻繁に起こっていると言われている。また、ヒトの癌細胞における転写制御にも関与しているとも言われている。

      これはプレスが出る前、昨日の6時頃に新聞記事を読んで書いた分で、プレスが出てからでは無意味な類のPOSTです。新聞の解釈が間違っているというのは、プレスがでた時点で明らかなので掲載されなかったのだろうと判断していました。(と昨日自分の所で書いたのですよね) コメントが付かないうちに掲載されたのを見つけていたら削除をお願いしたのですが、せっかくきちんとコメントしていただいているし、削除していただくべきかどうか迷います。

         # プレスを読んでからPOSTすべきでした
      親コメント
    • かつて植物バイオの世界でもアンチセンスmRNA法といわれる技術があって、日持ちのするトマト「フレーバーセーバー」なんてのがこの方法で作られていた。ある蛋白質をコードするmRNAに対して相補的な配列をもつRNAを遺伝子組み替えで作らせる。するとそのmRNAを元にしてできるはずの蛋白質ができなくなる。フレーバーセーバー・トマトは細胞壁分解酵素を抑えていたっけ。 それは現在RNAiと呼ばれる現象だと後に判明。当時はアンチセンスmRNAのメカニズムは不明で、相補鎖形成による翻訳阻害が原因なんて言われていた。しかし対象となるmRNAが分解されることは知られており、一部にDNAメチル化によるmRNAの転写阻害があるかも、と言われていた。

      それがホントにあったのね。
      親コメント
      • いや、アンチセンスの方は、むしろsiRNAと類似の機構だと考えられているのでは?
        今回はCpG islandのDNAメチレーションを制御する場合で、mRNAにコードされない部分を標的にしてます。それに対してアンチセンスはあくまでmRNAに相補的なものを使うわけで。

        アンチセンス一本鎖RNAが細胞内に取り込まれて相補的なものと結合して二本鎖になると、ダイサーという酵素によって切断されて20mer以下になり、結果的に2本鎖siRNAができるという機構があることが見つかってますし。

        ついでにいうと、2本鎖の長いRNAだとでも原理的には同じことがおきそうに見えるんだけど、その場合、高等生物ではインターフェロン応答というものが同時に起こって、すべての転写が非特異的に抑制されます。この応答は元々、ウイルス感染が起きたときに細胞がα/β-インターフェロンを産生して全転写を抑制し、ウイルスタンパクの合成を止めることで生体を守ろうとする機構で、このため、特定配列を特異的に抑制するということは出来なかった。ところが20mer前後のsiRNAでは高等生物でもインターフェロン応答を起こさずにRNAiが起こせることが判った、という経緯があります。
        親コメント
        • 実は長いアンチセンスRNAが高等動物で使えないというのが寡聞にして初耳。調べてみたら本当ですね。ショウジョウバエのごとく普通にRNAiが出来るものと思いこんでました。なるほど。情報に感謝します。

          あとアンチセンス法と転写抑制の話ですが、RNAi以前のアンチセンス法でも非翻訳領域やゲノムDNAの部分配列を用いる場合があったと記憶。この時に配列中に含まれていた非コード領域が断片化して核に到達→今回の報告のように働いて転写抑制に至ったのかな、と憶測したわけです。はい。
          親コメント
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犯人は巨人ファンでA型で眼鏡をかけている -- あるハッカー

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