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日記

Torisugariの日記: 攻める米の値段 8

日記 by Torisugari

自炊して自分でお米を買っている人や、あるいはお米を売っている人ならよく分かると思うのですが、今、玄米60kgの平均価格が14,000円前後なんですよね。60kg20,000円が選挙の争点になろうとしていた頃とは隔世の感があります。しかし、正直なところ、この値段はどこまで下げることができるのでしょうか?

この先の話は結構ややこしいので、先に結論を言うと、私は2,000円前後まで下げるべきだと思っています。今の14%、8.6割引ですね。スーパーで10kgのコメ袋を買った時に、税込み500円でお釣りが出るか出ないか、という程度、と言いましょうか。デフレに悩む日銀の人が聞いたら卒倒するかもしれません。ちなみに、2,000円の根拠はベトナム米の相場です。政府がミニマムアクセスで調達しているカリフォルニア米中粒+タイ米長粒の相場は、今月、キロ60円、つまり60kg3,600円なので、とりあえずはそこでもいいのですが、国際市場では戦えないので、最終的には2,000円を目指すべきでしょう。

どうやって米の値段を下げるのか、といえば、もう、それは補助金しかありません。しかも今までのような生半可な補助金ではありません。最低でも兆単位でもってして、米農家を補助金漬けにするのです。財源がない?もちろんありませんから、社会保障費を充てます。

おいおい、と思った方、まあ待ってください。今、日本人は年間平均54.6kgの精米、つまり、ほぼ玄米1俵60kgの米を消費しており、その原価が約14,000円だったところ、2,000円に下げよう、というのです。つまり、これは国民全員に年間12,000円の可処分所得をバラ捲くに等しい行為ですから、社会保障以外の何物でもありません。年金や生活保護を切り詰めるには十分な理由でしょう。まあ、めんどくさいので、国民ひとりあたり12,000円の負担が増えるように所得税率を上げるのでもかまいません。その場合、金持ちも貧乏人も、米を食べる量は大して変わらないでしょうから、中流層の家計への影響はゼロで、金持ちが貧乏人に米を配るような感じになるはずです。社会主義的な観点でいうと、12,000円分の米が配給されるようなものだ、といった方が分かりやすいでしょうか。

さて、消極的なメリットの次は積極的なメリットの話に移りましょう。米が60kg@2,000円になったら、何が嬉しいのか。言うまでもなく、「コメの関税」をゼロにできるのが最大のメリットです。戦後日本は伝統的に加工貿易の利益を享受してきた関係上、自由貿易を標榜し、安倍首相に至っては、日本主導で自由貿易体制を牽引し保護主義に対抗するという趣旨のことまで言っています。その日本の自由貿易における最大の弱点が米をはじめとする農産物であることは議論をまたないでしょう。しかし、コメの関税がゼロならどうですか?日本は完全無欠の自由貿易主義国として、何ら政治的的譲歩をすることなく外交交渉に挑むことができます。真の意味で強い日本が誕生するのです。

2つ目のメリットとしては、農業技術の向上が挙げられます。実は、日本の農業技術は先進国どころか開発国にもすでに後れを取っているという指摘があります。過去の日本の農業政策に詳しくない方はピンと来ないかもしれませんが、米や嬬恋村キャベツなどには「生産調整」という恐ろしいイデオロギーがあり、要するに「量を作り過ぎないようにしろ」「耕作面積を減らせ」「もし豊作で作り過ぎたら捨てろ」と言われ続け、その通りにしてきました。こういう状況では「今週中にあと4ヘクタールの稲刈りをしなきゃいけないから、もっと高速で進むコンバインを買おう」とはなかなか思えないもので、効率の追求は疎かになり、消費者にほとんどニーズのない付加価値を付けることに腐心してきました。しかし、60kg2,000円の米は海外市場と互角に渡り合い、太平洋の対岸にある水田を全てトウモロコシに転作させることができる、攻めの値段です。余った分を海外に売ればいい、となれば生産調整をする必要もありません。量を作るからこそ、効率が重視され、新しい農法や農作業機械も生まれようというものです。

突然こんなことを言いだす人が現れたら、面喰う人も多いでしょう。でも、これは私が考えたアイデアではありません。実は、アメリカとEUの農家は既に上記のレベルで完全に補助金漬けなのです。日本の牛が食べているトウモロコシだって、その半分以上がアメリカ国民が払った税金で賄われています。つまり、先進国の農業はずっと前から社会主義だったのです。なぜ、そんなことに無駄な金を使うのでしょうか?端的に言うと、農作物は単なる商品ではなく重要な物資だからでしょう。そして関税交渉で弱みを作らず、労働者の受け皿にもなる、一石で4鳥も5鳥もあるのが、補助金漬け農業なのです。

生産性を高く維持したまま不労所得を出さないような補助金の授受方法は、耕作面積ごと、収穫量ごと、相場の含み損補償など、もうすでに欧米では研究されつくしているので、あとはそれを真似するだけです。塩漬けになった耕作放棄地が多いのが日本の特徴ですが、それも耕作面積補助金と農地の固定資産税をリンクさせる形で徐々に上げてゆけば、すぐに問題ないレベルまで流動化するでしょう。

かつて、日本も補助金漬け農業に舵を切ろうとしていた時期がありました。しかし、その時は時世が悪く、金額も中途半端になってしまいました。具体的に言うと、ドーハ・ラウンドでは、「(日本を除く)先進国の農産物が補助金によって不当に安くなって開発国の農家を廃業に追いやっているから、補助金をやめろ!」というのが最大の焦点だったので、日本が「いままで色々交渉してきたけど、今から米価を下げるために補助金をジャブジャブ出す」とは言い出しづらい状況でした。しかし、欧米の努力により、ドーハ・ラウンドは2011年に吹き飛んでしまったので、(WTOの補助金協定さえ守れば)今や農家を補助金漬けにすることに誰を憚る必要もありません。むしろ、今後の情勢はどう動くか読めないので、今しかないのです。

こうしておけば、この美しい国から朝食パン党が根絶され、再びごはん党が栄華を謳歌することになるでしょう。

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  • by Torisugari (25483) on 2016年12月26日 19時21分 (#3135835) 日記
    • 米の相対取引価格・数量、契約・販売状況、民間在庫の推移等
      http://www.maff.go.jp/j/seisan/keikaku/soukatu/aitaikakaku.html [maff.go.jp]
      平成28年産米の相対取引価格・数量(平成28年11月)(速報)

      全銘柄平均価格、14,350円/玄米60㎏税込

    • MA一般輸入米入札結果の概要 - 農林水産省
      http://www.maff.go.jp/j/seisan/boueki/nyusatu/n_marice/ [maff.go.jp]
      第9回MA一般輸入米入札結果の概要(28年12月15日)

      落札価格(加重平均)59,969円/トン

    • 最近の米をめぐる状況について(平成28年10月) - 農林水産省
      http://www.maff.go.jp/j/seisan/kikaku/kome_siryou.html [maff.go.jp]
      米の年間1人当たり消費量の推移
      http://www.maff.go.jp/j/seisan/kikaku/attach/pdf/kome_siryou-24.pdf [maff.go.jp]

      平成27年 精米54.6kg

    • 第192回国会TPP特別委員会 第4号 - 衆議院
      http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/03... [shugiin.go.jp]

       そして、世界の自由貿易システムが現在岐路に立っているわけでありますが、日本の戦後の復興そして成長はまさに自由貿易のルールの中でかち取ってきたものであるということは、これはもう明確なんだろう、こう思うわけでございます。

       しかし、その中において、今、世界の自由で公正な貿易・投資ルールを牽引する意思を示していかなければいけない状況、それはつまり、保護主義が蔓延し始めているわけでございます。この保護主義が蔓延し始めている中において、我々がしっかりと、自由貿易、日本が経済成長を果たしてきた源泉である、礎であるこの自由貿易をしっかりと守っていくという意思を示していく必要がある、こう考えたわけであります。

      第192回国会TPP特別委員会 第12号 - 参議院
      http://online.sangiin.go.jp/kaigirok/daily/select0208/main.html [sangiin.go.jp]

      まさに今、米国の政権は移行期にあるわけでございますし、世界の中において保護主義が台頭しようとしているときこそ、自由貿易の重要性、そして日本はいつでも高いレベルのルールについて批准できるんだ、適応できるということをしっかりと示していくことが大切であろうと、こう思うわけでございます。

    • by Torisugari (25483) on 2016年12月26日 19時25分 (#3135838) 日記
      • 日本の農業技術は国際的に低レベル - 岡本信一
        http://www.foodwatch.jp/primary_inds/whatisgood/31805 [foodwatch.jp]

        日本の農産物は、品質が高いとよく言われる。本当だろうか。海外にも行く機会がある私から見ると、別に品質が高いとは思えない。パッケージは、いろいろ工夫が凝らされるようになり、大きさもそろっていて、一見よく見えるが、実際の品質というと別によいとは思えない。見た目はいいが中身がついてきていないということだ。たとえば、レタスなどアメリカから船便で2~3週間かけて到着するものでも、日本で収穫の翌日に市場に着くものよりも傷みが少ない。アメリカ産のものは農薬か何かをかけているのかということではなくて、日本のレタスは傷みやすいのだ。これでは明らかに品質的に劣っていると言わざるを得ない。

        また、日本の生産技術が優れているということもよく言われるが、誤りだと言っていい。これは、開発途上国から見れば一見進んでいるように見えるというだけなのだ。先進国であるから日本の農業技術は進んでいると勘違いされている。実情は、全く進んでいない。多くの作物について、日本は主要先進国の中で唯一、単位面積当たりの収量の伸びが30年間も止まったままだ。他の国では技術革新が次々と起こり、どんどん変化しているにもかかわらず、日本の農業技術は実は30年前に止まったままの袋小路の中にいる。日本国内ばかりを見ているうちに、すっかり置いていかれているのだ。

        日本の農産物の状況は、国内メディアなどが優秀と報じているのとは全く違っている。国内マスコミが、その実情を知らないだけのことだろう。それはジャーナリストに問題があると言うよりも、国内農業関係者のほとんどがそれに気づいていないのだから、ジャーナリストが勘違いしてもしかたがないだろう。

      • 第3回産業競争力会議・農業分科会 配布資料 - 農林水産省提出資料
        http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/bunka/dai3/siryou1_1.pdf [kantei.go.jp]
        米の生産調整が開始された経緯

        一方、高米価政策(生産費・所得補償方式による価格維持政策)が行われたこと、昭和40年代前半に大豊作が続いたこと(作況指数:昭和42年 112、昭和43年109)等もあって、食管制度による政府全量買入制度の下で政府在庫が720万トン(昭和45年)となり、膨大な過剰在庫が発生し、第1次過剰米処理を実施。米の生産量を抑制することが急務となり、昭和46年度から水田の休耕などを中心とした生産調整(減反)が本格的に開始された。(併せて、政府買入を行わない自主流通米制度を創設。)

        その後も、昭和50年代半ばに第2次過剰米が発生し、その処理(飼料用、加工用等に販売)に、第1次過剰米処理と合わせて約3兆円を要した。

      • Direct and Counter-Cyclical Program
        https://en.wikipedia.org/wiki/Direct_and_Counter-Cyclical_Program [wikipedia.org]

        Average Crop Revenue Election
        https://en.wikipedia.org/wiki/Average_Crop_Revenue_Election [wikipedia.org]

      • 農業者戸別所得補償制度はバラマキだったか? - 森口博充
        http://www.murc.jp/thinktank/rc/quarterly/quarterly_detail/201301_91.pdf [www.murc.jp]
      • 米・EUの農産物輸出補助金とは - 北沢洋子
        http://www.jca.apc.org/~kitazawa/wto/wto_general_doha_collapse_7_2007.htm [apc.org]

        これは、WTO交渉の中で南北間の最大の対立点である。途上国では農民が人口の大多数を占めており、これは農民の生死にかかわる問題である。途上国は植民地時代のモノカルチャー経済を継承して、単一農産物を生産し、その輸出に経済が依存している。米国が補助金漬けの安い綿花を国際市場にダンピングすれば、西アフリカの綿花生産国の農民は破産してしまう。EUが補助金漬けの甜菜糖をダンピングすれば、カリブ海の島嶼国のさとうきびプランテーションの農業労働者は失業してしまう。 すでに途上国では、80年代にIMFや世銀の構造調整プログラムの導入によって、貿易自由化を強制された。したがって、途上国の農民は農産物の国際市場価格の変動に翻弄されやすいし、それだけ関心がある。

        2003年の米国のNGO「農業貿易政策研究所(IATP)」の調査によると、米国は大豆、とうもろこしは、それぞれ10%、コ

      親コメント
  • by Anonymous Coward on 2016年12月26日 20時21分 (#3135870)

    江戸時代は一日五合喰っていたらしい。
    米をしっかり食うと明け方寒くない。
    米食って力仕事する、米エンジン万歳。

    • by Anonymous Coward

      そもそも、米が主食って幻想じゃないんですか?
      1960年代以降になって、やっと米だけのご飯が食べられるようになったそうです。

      • by Anonymous Coward

        明治の兵隊さんは白米食ってたぞ
        #それで脚気になったんだが

        まあ、昔とは労働量が違うし、副食も一汁一菜だったから単純比較はできないけど

        • by Anonymous Coward

          食事の量に関して言うと、今と昔で決定的に違うのは寄生虫でしょうね。今風に言うと腸内フローラですが、寄生虫は細菌とは違って消費カロリーが高いので。

    • by Anonymous Coward

       雨ニモマケズ(1931)に質素な食事として「一日ニ玄米四合」とあるように、日本で一番コメを喰っていたのは台湾や朝鮮を植民地にして米を「収奪」していた時期だそうだ。酒や菓子などの加工米も含め、とんでもない量を消費していたし、麦やイモよりも安い位だったそうな。コメ不足のイメージは敗戦前後の数年間のフィルターを通して戦前を見ているからそうだ。なお、江戸時代の庶民はもっぱら雑穀に混ぜ物をして食っていた。
       で、戦後、植民地からのコメの移入が途絶えるとともに外地から人が戻るとともに輸入制限他の資材不足で化学肥料他の農業資材が十分に用意できなければ需要に対して十分なコメは用意できずに飢餓を招いたと。
       ま、高米価と農業支援により生産が増えるとともに、高度成長により「味噌ト少シノ野菜ヲタベ」からおかずがたくさん食べられるようになって米需要が減り60年代の終わりにはコメ余り、減反が始まった。

      • by Anonymous Coward

        その後の変化は、上の資料
        http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/bunka/dai3/siryou1_1.pdf [kantei.go.jp]

        によると、35年前と比べてカロリーベースで純減しているのは米・糖類、純増しているは芋・畜産類で、その他の品目である魚・小麦・芋などは横這い状態なんですよね。菓子が甘いものからスナック系に変化して、なおかつ肉ばっかり食べるからご飯が食べられない、というのが実態のようです。

        だから政府が飼料米を躍起になって推進しているわけですけど、このサイクルも補助金を入れないと牛肉の値段をさらに上げてしまうので、なかなか難しい舵取りが必要になると思います。あんまり飼料米と食用米の価格差を付けると、確実に闇米が出るでしょうからね。

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ナニゲにアレゲなのは、ナニゲなアレゲ -- アレゲ研究家

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