t_mrc-ctの日記: 56歳は若すぎるはずなのに
Steve Jobsが死んだ。56歳。年齢を聞くと改めてその死が早すぎるってことを実感する。でも、どうも彼の死には早すぎるっていう言葉が合わないような気がする。今敏が膵臓がんで死んだ時は46歳という年齢もあるんだろうけど、若すぎるって感じだった。この違いは何なのだろうか。
ひとつは、作り上げたものの数の多さかなと思う。今敏の映画は、わずか4本。その独特の雰囲気から4本とも有名だが、その4本しかない。駄作も最高傑作もこの4本からしか選べないのは、あまりにも少なすぎる。
一方のSteve Jobsの作り出してきたものはあまりにも多種多様で、一個人がこれほど多岐に渡るジャンルで世界をリードするっていうのは異常といっても良いと思う。Steve Jobsは一人間がこの現代社会で到達し得る成功の限界を余裕で超えている。Steve Jobsがまだまだ生き続けていれば、まだまだ多くの嬉しい衝撃を人々に与えてくれただろう事を思うとその死は残念で仕方がないが、彼のやり遂げてきた事を見ていると、何故だかその死すらも彼のプランのなかに含まれていたんじゃないかと思えてくる。
2004年に膵臓にがんが見つかって以降のSteve Jobsの仕事を振り返ると、そのイノベーションの連続に驚かされる。彼はやはり生き急いでいたのではないかと思う。どれだけ残されているかわからない余生を後悔なく生きるためか。あるいは、絡み付いてくる死を振りほどくためか。
2004年以降のAppleの製品には迷いがないように感じる。あるひとつの理想に向かってただひたすらブラッシュアップし続けているかのような、面白みはないけれど、完成度はどんどん上がっていく、そんな感じ。iMacもMacBookもiPodもiPhoneもiPadも、よりシンプルでより美しいデザインを目指して限界までムダをそぎ落とされていく。何だか、先の事を考えずに限界を目指してひた走っているような雰囲気を感じてたんだけど、そういう方法で製品の魅力を限界まで引き出す事ができたのは、自分自身のなかにタイムリミットを感じていたSteve Jobsだからこそなのかなとも思う。
膵臓がんという差し迫った死を目の前に突き付けられてからもこれだけの事を成し遂げてきたのは、死という現実すらある意味で無視して、脇目も振らずひとつの目標に向かってひた走った結果だと思う。 改めて、Steve Jobsという男の強烈なまでの情熱を思い知らされる。
今、この文章をOSのサポート切れ寸前なPowerMac G5で書いている。そんな環境だからSteve Jobsに対する恨み辛みがないといったら嘘になる。しかし、同じ時代を生きて、keynoteのストリーミングを見て、その作品を自分の手にできたことを私は嬉しく思う。
今まで本当にありがとう。
さようなら。
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