akiraaniの日記: TRPGと電子書籍 6
先日、つぎはぎ本舗さんがニコ生するというので見てみたのですが、メインになるのはTRPGの電子書籍化についての提案とアイデア募集の話でした。
どちらもこの日記でも何度も話題にしていて、専門家というほどではないが一家言あると自負しており、コメントもいくつか書き込んだのですが、ニコ動のコメント程度の長さでは詳しい話はなかなか伝わらない。
というわけで、なかなかに興味を引かれた題材でもあったのでいろいろ語ってみようかと。時間があればもうちょっとまとめて、Drupal.cre.jp あたりにポストしておきます。
・告知・宣伝方法について
TRPGの宣伝媒体等と、今のところ各種イベントと専門誌がメインだろう。
しかし、雑誌の電子化というのはなかなにつらいものがある。特に、情報誌の類は情報の鮮度、掲載可能な情報量など主な部分で統合ポータルに完全に負けてしまう。ただ、TRPGやアナログゲームの場合は、付録などで電子化できない付加価値をつけて差別化することが他のジャンルに比べて比較的容易ではある。
ネットを活用するということであれば、コミュニティをメインにしたメーカー、ジャンルを問わないアナログゲームの統合ポータル作るのが良いのではないかと思う。結局、アナログゲームは口コミ評価がもっとも強力な宣伝手段であり、口コミ伝達の後押しをするコミュニティはあって損はないだろう。
・ルールブックの電子化について
以前に話題にしたことがありますが、そのときに比べるとだいぶ状況は改善してます。特に、iPadを初めとした大画面タブレット端末の普及が大きい。自炊ブームでTRPG関連書籍の取り込みもだいぶ進んだし、セッションに電子デバイスを持ち込む人は以前に比べて格段に増えたのではないですかね。
ただ、最適化という意味ではやはりスキャン取り込みのPDF+OCRというのは使い勝手はよろしくないです。ノートPCをS10に新調してセッション中十分に使える駆動時間が確保できたため、先週末のコンベンションでPDFのルールブックを参照しながらプレイしていましたが、素のコンバートデータはそんなに便利というものでもないです。複数のルールブックをまとめて持ち歩けるという利点はありますが、閲覧性では一覧データからの詳細データ参照の往復が簡単にできるとかそういう追加機能がないと返って不便です。
あると大変便利な機能はと言うと、データチャート類の個別表示とフィルタリング、チャートの個別データの詳細表示機能、アーキタイプごとのサマリデータの作成機能、追加サプリメントや追加データの統合表示など。データのDB化(後述)ができれば比較的簡単に実現できる機能と思われるので、その方面の利便性をアピールしていくのもいいかもしれない。ここまで実装できれば、紙の書籍よりも高価だとしてもヘビーユーザーは購入を考えるのではないだろうか。
・ビジネスモデルについて
一気に話がでかくなりますが、TRPGルールブックの電子書籍化は一般の電子書籍とはだいぶ事情が違いますので、通常の電子書籍とは違ったアプローチが考えられます。
個人的に重要なポイントと思うのが「TRPGのルールブックの使われ方」「どこからお金を出す仕組みにするか」あたりですかね。
まず、最初の使われ方についてですが、TRPGのルールブックは、辞書のように何度も何度も、それも部分部分をばらばらに参照される書籍です。とくにキャラクターメイキングの部分はデータチャートと連携して参照されることが多く、利用に特化した形のフォーマットを作り、電子書籍ならではの付加価値として提供することができればより売りやすくなるはずです。
もう一つが、どこからお金を出すか、についてです。電子書籍なんだからダウンロード販売にすればいいという考え方はかなり危ういのではないかと。特に、レジュメをコピーしてプレイヤーに配るのが当たり前であるTRPGルールブックにDL販売でありがちなDRMをつけてしまうと不便なメディアということになり、利用者にとっての価値は著しく下がってしまうだろう。むしろ、レジュメの抜粋だけを印刷するサービスをオプションでつけるなどすればユーザーにとっての利用価値は増大するだろう。
お金を出す手段というと、広告もあります。参照したりレジュメを印刷するたびに広告が挿入されて、それで広告料が入るとかになれば販売単価を下げることも可能かもしれません。ベーシックシステムを広告モデルで無料配布し、シナリオや追加データのサプリ、プレイアビリティを向上させるアクセサリなどを有料で販売するなどのモデルもありかもしれない。
そのあたりの要素を組み合わせて、既存の電子書籍ストアとはまったく違ったモデルでビジネスを回していくことは可能だと思います。
・コストの圧縮について
薄利少売が実情になっている電子書籍にとって、製作コストの低減は非常に大きな課題になります。しかし、TRPGルールブックの特性と電子書籍のメリットをうまく活用すれば、ルールブック作成にかかるコストをある程度圧縮できるかもしれない。
例えば、コストを下げる方法として、DBの利用が考えられる。ルールブックの誤植で、圧倒的に多いのはチャートのデータ記述ミスだろう。ゲームデータをすべて一つのデータベースに集約してしまい、ルールブック内での記述はすべてDBからデータを参照するようにできれば、誤植は圧倒的に減ってチェック自体が不要になるまた、バランス調整で後からデータを変更した場合に、DBを更新すれば書籍内のデータすべてに反映される。さらに、チャートそのものを作成することも容易になり、執筆も大幅に楽になるだろう。また、データをその場その場で修正して反映したドキュメントを利用することが可能になるので、テストプレイ時にこれらの電子版データを使用することで、テストプレイの期間短縮が期待できる。
さらには、調整前のデータをベータ版としてオンライン限定で公開するなどしてクローズドβテストのようなやり方が可能になるかもしれない。
もともとコストの多くが人件費であるTRPGのルールブック製作工程において、これらの手間の低減はコスト圧縮に直結するはずだ。
それから、コモンズ素材の活用も進めていくべきかもしれない。アイテムなんかは特に、システムや世界観ごとの独自性なんて必要ないイラストも多い。そういった複数のシステムで汎用的に使えるイラストをコモンズ素材として集めておけば、コスト圧縮につながるのではないか。
・ネットコミュニティの相互利用について
TRPGやアナログゲームは基本的に多人数で遊ぶものなので、コミュニティサービス(SNSなど)と大変に相性がいい。ルールブックを電子化するにあたってネットコミュニティとの連携を使ったビジネスモデルは当然視野においておくべきでしょう。
例えば、現在行われているPBW(Play by web)との連携企画なんかもネットコミュニティの活用事例といえる。また、オンラインセッション向けのサイト運営などもできれば有料会員制コミュニティなんてのもありかもしれない。
コスト圧縮のところで話題に出したクローズドβテストプレイメンバーの募集などをかけるようにすれば、いち早く新作がプレイできるわけでお金を払ってでも参加しようというユーザーもいるだろうし、コモンズ素材の利用なんかもコミュニティを通して運営すればCGM的に低コストでフリー素材を集めることができるかもしれない。
今現在活動している有力なコミュニティはというと、trpg.net、ニコニコ動画あたりでしょうか。
trpg.netは運営者であるsf氏の訃報があり一時期サイトが閲覧できない状況でしたが、有志が遺族からサーバ資産などを受け継いで復旧作業を続けており、最近になってようやくサイトが復活しています。今後新しい取り組みなんかもやっていこうという状況のようなので、企画しだいでは連携が可能かもしれません。
ニコニコ動画についてですが、卓ゲM@sterを初めとする架空リプレイ動画が盛んに投稿されており、知らないルールがあればたいていのシステムでチュートリアルやらリプレイを含む関連動画が投稿されているという状況です。ユーザーコミュニティを作成できるので同人ルールでも手軽に広報サイトを作ることができます。また、ニコニコモンズというコモンズ素材が利用できるようになるので、プロモーション動画を作る場合はいろいろコスト削減が可能かもしれません。
おまけ
TRPGルールブック用汎用電子書籍フォーマット
・ポイント
データ部分を完全にDB化し、ルールブック内の記述はすべてDBからの参照という形で行う。
→エラッタが出た場合の修正が容易、データの追加・統合が容易。
データフォーマット案
データパーツテーブル
名前、システム、タイプ、メインパラメータ1~10、コストパラメータ1~5、フィルタリングキーワード、フレーバーテキスト、イメージ、拡張パラメータ
名前:データの名前
システム:使用するゲームシステム
タイプ:データの種別、例えば特技、呪文、武器、防具、アイテムなど。各パラメータの詳細定義は別テーブルでタイプごとに設定する
メインパラメータ:データのパラメータ。例えば武器なら攻撃力、命中修正など
コストパラメータ:価格や消費MPなどのコストにかかわるパラメータ
フィルタリングキーワード:種別の詳細分類(クラス分類や武器の使用技能など)や登場サプリメント名など、レギュレーションやキャラクターでグルーピングに使用されるデータ。
フレーバーテキスト:データの詳細の解説などのテキストデータ
イメージ:イメージイラスト、もしくはアイコン
拡張パラメータ:予約値
タイプ定義テーブル
各パラメータのタイトル、データ種別、詳細説明、ポップアップ表示レイアウト、チャート表示レイアウト、キャラクターシート転記レイアウトを定義。
表示時は表示するデータの種別と、どのレイアウト(ポップアップ、チャート表示、キャラクターシート転記)を使用するか、フィルタリングキーワードの条件を指定することで、書籍ビューアが動的にチャートを作成する。チャートをルールブック本編中に埋め込むことも、リンクをクリックすることでチャート表示専用ウィンドウに表示させることが可能。
もはや「書籍」では機能不足? (スコア:1)
そこまで機能が盛りだくさんになると、
ルールブックの「電子書籍」化というより、
ルール自体の電子化(アプリ化)といったレベルになってきますね。
そういう意味ではD20システム…とまではいかなくても、
SRSレベルぐらいまでは統一されたルールプラットフォームというのが、
いままで以上に重要視されることになるかもしれません。
ビューア側の統一化と、データ側の作成コスト低減的な意味で。
あと、ワールドガイドとかマスタリングガイド部分が分割されて、
別添で一般的な電子書籍とか紙の書籍になってみたりするのかも。
海外事情(Shadowrunとか)とか書いてみる (スコア:1)
Shadowrun 4th Editionとかは「PDFのみ」で、小容量の追加データ集が沢山あったり、ルール・サプリなどもPDF先行とか、PDFと紙本セットとか売ってて結構電子化が進んでる印象があります。
おかげで移動時に持ち運ぶものが少なくて済むという「軽量化」の面で、電子書籍は圧倒的なメリットを持ってるんですが、あんまり重視されないんですかねぇ…
#アリアンロッドとか、アルシャードは必要なサプリ全部持ち運ぶと尋常ではない重さになるはずのになぁ…
システムのDB化はむしろコストが増大しそうな気がします。DBの構築、参照できるシステムの構築、どれを取っても既存のTRPGデベロップに不要である(か、専門の要員は置かれない)人材が必要とされるわけで、かなり追加の人件費が必要になるのではないでしょうか。検索性を上げるとなると、キーワードの構築にも相応の手間が必要とされるはずですし、サプリメントによるアップデート(追加の概念などへの対応)をしっかりするのにも結構手間がかかりますよね。
海外のものでもPDFにはなるけどDBにはならないあたり、多分そのへんのコスト感覚なんではと考えてます。
#システムのアップデートにともなうDBの再構築とエラッタの反映については、いっそ「ページ単位で差し替えてやる」ほうが楽かもしれません。
#Shadowrunの場合は「アップデートしたPDFをDLできるようにしたから!」というメールが来たことがありました
DB化しなくても、「装備一覧のページを全サプリメントで横断的に見れる/索引できる」とかの機能があれば、それなりに便利ですし、それ以上の利便性をいきなり実装する必要もないかな、というのが現状自分の考える意見です。
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余談
GFとかR&Rで毎号小出しになっている追加データ情報をシステムごとに電子化して配信して、纏めて見られるようにしてくれればくれるんなら一覧性もあがって金出してもいいって人が多そうなんだけどどうでしょうかね。
Re:海外事情(Shadowrunとか)とか書いてみる (スコア:1)
既存のシステムがDB化されないのは、ビューアを変えないことが前提だからでしょう。むしろ、デザイナーだって内部的には表計算ソフトとか使ってデータ管理してるんじゃないかと思いますので、DB化自体はされてるでしょう。
この話は、そのDBを書籍ビューアが直接参照するようにすれば校正の手間が減るね、という話です。
確かに、フォーマット策定自体は電子書籍のIT方面の専門家にしてもらう必要があるし、ビューアの開発も必要ですが、今回想定しているのは一度フォーマット、ビューア、エディタを策定してしまえば、すべてのシステムで使える汎用的なものです。
規模的にキーワードのインデックス化が必要になるとも思えないし、DRMやらを考えないのであればさほどコストのかかるものでもないんじゃないかと……。
しもべは投稿を求める →スッポン放送局がくいつく →バンブラの新作が発売される
大事な点が抜けてる (スコア:0)
Re: (スコア:0)
山本弘・こいでたくの「RPGなんて怖くない」にも、未来のRPGの姿として「やっぱりダイスは手で振る」みたいな事が書いてあったでしょ!
なんだか懐かしい議論 (スコア:0)
まだ人々が HyperCard なるものを使っていたころ、ソードワールド(多分)のキャラシートやデータベースを HyperCard 化して、計算だけ自動化して遊べるようにしておいた記憶が。まぁ便利でしたよ。書籍と支援アプリの中間でしょうね、狙うべきは。
# とはいえ、紙のキャラシーはそれはそれでまた良いものだが‥‥‥