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日記

m_nukazawaの日記: 「A generate TrueType font binary file from /dev/null」序文

日記 by m_nukazawa

技術書典6にて頒布した技術同人誌「ゼロから作るTrueTypeフォントファイル」(Linkは電子書籍版)の序文です。

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「魔法少女まどか☆マギカ」の原作とファンコミュニティに感謝を。

# はじめに - 魔女とホットレモネード
フォントは誰にでも作ることができる。だから私にもフォントが作れる。そのことを「魔法少女まどか☆マギカ」が教えてくれた。
正確には北米のファンコミュニティだけれど。

「魔法少女まどか☆マギカ」劇中に魔女文字と呼ばれるオリジナル文字が登場する。当時のリアルタイム視聴組(ファンコミュニティ)の中に[「解読班」]( https://wiki.puella-magi.net/Deciphering_the_runes )と呼ばれるクラスタがあり、彼らは持ち前の知性と行動力により魔女文字を解読することに成功した。
原作チームは魔女文字が解読されるとはまったく思っていなかった。
解読には暗号解読の技術が応用された。その過程には文字の収集と整理が必要であり、魔女文字についてコミュニケーションするために有志によるコピーフォントが作成された。
当時の私は解読班のストーリーに強く惹かれた。「らせん」を読んで以来求めていた刺激的な新しい暗号解読の物語。魅力的な物語の謎に惹かれた有志がインターネット上のコミュニティに集まり、未知の言葉へと挑戦する。しかも誰かの意図や企画ではない。目の前の現実世界で進行する、本物の解読過程。
「魔法少女まどか☆マギカ」の放送が終る頃には、魔女文字はすべて解読された。けれど私の中ではあの時に触れた熱が冷めなかった。困り果てた私は持て余した熱を捨てる先としてフォントを作り始めた。

ルーン文字フォントを作ったのは魔女文字フォントを作成する前の習作としてだった。
けれどソフトウェア業界人の常で、手段と目的がいつの間にやら曖昧になっていく。
フリーフォントを作った勢いで、生まれてはじめて商用フォントとしてデータのダウンロード販売に手を出した。
米国で有名企業を立ち上げたCEOは多くが7歳頃にはレモネード売りのビジネスを始めているものだとどこかで読んだ覚えが有る。私の尊敬するジョエル・スポルスキは[14歳でドーナツを売るビジネス]( http://local.joelonsoftware.com/wiki/「Eric_Sink_on_the_Business_of_Software」への序文 )を始めている。私は7歳がレモネードを売る微笑ましさに社会人になってからやっと追いついたというわけだ。しかもフォント販売は7歳の子どもが夏休みに売るレモネードよりもずっと儲からない。
けれど27歳でIPOしたマークザッカーバーグと比べれば、商業的には人生のすべてが無意味だ。
ルーン文字フォント販売は、自分には何にも無いという不安な気持ちを抱える新社会人に、たとえレッテルだけでも「リテールプロダクト」「スモールビジネス」という自信を与えてくれた。
そしてフォント開発がソフトウェアエンジニアとしての経験を広げてくれた。社会人としての業務でフォント知識が役立ったこともある。
夢は必ずしも思い描いていたところには連れて行ってくれないが、思いがけなく素晴らしい場所へ導いてくれることはある。私は魔女文字をきっかけに、たくさんのすばらしいものに出会うことができたと思っている。

むかし冗談として「フルスタックフォントエンジニア」と言ったことがある。RuneAMNにおいて私は企画・デザイン・広報・エンジニアリング・パッケージング販売まで、フォント製品を販売するために必要なすべてを本当に一人でやった。冗談にしたのは後ろめたく思ったからで、大切な商品のことをFontForgeにまかせて、フォントファイル・フォーマットの詳細に対する理解が足りないままだと思っていたからだった。
昔読んだワインバーグの本に「知っていることについて本を書くのではなく、テーマについて知りたければ本を書くことだ」と書いてあった。
技術書典6のことを考え始めた時、自分はガメラ2スタート時の脚本家よりもネタがからっぽなつもりでいたが、フルスタックフォントエンジニアになるためのラストピースが残っていることに気づいた。前回の技術書展5ではGTKをメインにクロスプラットフォームGUIをテーマにして、既に知っていることを文章におこしてまとめるだけだった。初技術同人誌だったため意図して安全な企画を立てた。が、今回は限られた時間で本当に調査し、動くかわからないものを動かさなければならない。

ファン創作としてフォントを作り始めた時、スモールビジネスなんて考えてもいなかった。今あなたが手にとっている技術同人誌も、つい半年前までは影も形もなく、私の手から生まれるはずの無かったものだ。
「まどか☆マギカ」があの時コミュニティに振りまいた熱の残り香が本書を生み出した熱源にもなっている。私もあの熱への感謝と貢献のために熱をどこかへ伝えたい。
物語から生まれてファンコミュニティ活動から伝わった熱がフォントと技術同人誌になったように、必ずしもあなたがフォントを作らなくても構わない。もちろんフォント創作のきっかけになれば嬉しいが。
本書に移った少しの熱があなたの何らかの活動の一助になったなら、私にとってそれ以上の幸福はない。

Written: Michinari Nukazawa @ project daisy bell (2019)

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