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275093 journal

okkyの日記: 後藤隊長はLeader, 内海課長は Manager 3

日記 by okky

面白い。
内海さんはいかにして企画七課をまとめているのか。
では、後藤隊長はいかにして特車二課第二小隊をまとめているのか。

パトレイバーの話である。

内海さんが「趣味で悪役をやっている人」ならば、後藤さんは「仕事として正義の味方をやっている人」なのだ。

というのは非常に正解に近いと思う。が、間違いだろう。

後藤さんは意図的に昼行灯なのであって、決して本質的に昼行灯なわけではない。彼が昼行灯なのは「昼行灯でも良いとき」に「昼行灯で付き合ったほうが良い相手」に対してであって、誰に対してでも、では無い。そして、それ故に「仕事」の枠が外れ始める…つまり徐々にシャフトの企みが見え始めたり、内海課長とやり取りが始まると、この「昼行灯」さの後ろに刃物が見え始める。
彼の「昼行灯」としてのマスクは外れ始めるのは「正義」が蹂躙され始めているときで、ゆえに彼は本質的には「正義の味方」なのだ。このことを考慮すると次のポイントがむしろ真逆だとわかる:

c.内海課長程には後藤隊長は世渡り上手ではない。

後藤隊長は 後天的な 世渡り上手だろう。
少なくとも漫画で描画されている時系列の範囲内では、後藤隊長は「昼行灯」のマスクを被ってシラを切る術を身につけている。しかし、過去においてはそうではなかったようだ。ということは、明らかに彼は後天的に、学習によって、自身のシャープさを隠す術を身につけたのだろう。だからこそ、彼の価値観に反する内海課長の行為に対して、マスクが外れかけた
この観点で見れば「後藤隊長は仕事で正義の味方をしている」のではない。むしろ、後藤隊長は仕事で、凡庸さを装っているのだ。正義の味方としての彼は、もっとアグレッシブに正義のために動きたいと思うよ? でもそうじゃなくて自分の部下を維持したり、組織全体を動かすことを優先している。後藤隊長の正義感の強さこそ、どちらかというと趣味だろう。その意味では、かれの昼行灯振りを含めた「悪を見逃す行為」こそが仕事なのだ。彼は仕事で悪役のふりをしている

内海課長は世渡り上手ではない。かれは異常なまでに切れる利己主義者で、それ故に次に何をするかがよく判るのだ。それ故に、そのような手駒を必要とする者から重宝される。また、自身そのように扱われていることを理解しており、それ故にその範囲内において組織のルールを破るような傍若無人振りを発揮する。それが許されることを知っているからだ。
ゆえに、彼の周りには敵が多い。同じ組織内はもちろん、自分の組織である企画七課ですら裏切り者が内在し、それを実力で押さえつけている。企画七課を支持するものは全て「企画七課を利用しようとする者」であり、一歩間違えれば利害が相反して敵に回るようなものばかりだ。彼は独立したひとつの軍団の長であり、その軍団の外部には「利用者」をも含めて敵ばかりなのだ。内部も敵が多いが、外部の敵の方が圧倒的に強く、数も多いことを利用して組織を纏め上げている。だから黒崎君も内海課長を叩き落すための暗躍ができない。

後藤隊長率いる第二小隊は意外と敵が少ない。普段からある程度競争関係にある第一小隊、第二小隊内部で性格が強烈過ぎるために発生しているゴタゴタはよく描かれているが、組織外との軋轢が少ないのだ。特車二課の状況もあろうが、後藤隊長がお願いすると意外といろいろ動いてくれる人たちがいるなど、特車二課外部にも味方が多いことがわかる。もちろん、そもそも警察組織という、非営利団体がベースだということもあろうが。

これゆえに、後藤隊長と内海課長の組織運営戦略は特徴的に違う、というのは正しい。じゃぁ、どう違うのか。

Marvin Bower という人がいる。マッキンゼーを今のマッキンゼーにした人だ。つーても中興の祖って奴とはちょっと違う。マッキンゼーそのものはマッキンゼーが作ったのだが、この人はすぐ亡くなってしまうのだ。このため、実質的に1から組織を作ったといったほうが正しい。この人は2冊の本を書いている。

一冊目の本、「マッキンゼー 経営の本質 -意思と仕組み-」…"The will to Manage" が原題だ…は 1966年に書かれた本で、すごく簡単に言うと、内海課長の立場でものが書かれています。組織を統括し、周囲の敵を蹴散らし、勝利するにはどうすればいいか。

二冊目の本は、"The will to Lead"…1997年に書かれた本で、これは後藤隊長の立場で書かれている。部下を直接コントロールするのではなく間接制御したり、組織外部にも味方を作ってそれらも含めて win-win の関係を作り上げ、勝利を築き上げていく。

その2つの運営戦略の違いは、タイトルに明確に現れている。内海課長は Manager であり、後藤隊長は Leader なのだ。

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ただし、内海課長は「悪の組織の Manager」である。最も重要なポイントは「自分達が悪の組織であることが、一般外部に露呈しないこと」。そのために彼の顔には笑顔が張り付いている。めったな事ではその笑顔は崩れない。ということは、彼の笑顔は全然本心じゃないということだ。

同じことが彼の組織運営にも言える。かれはどうでもいいことについては緩い。それが目的を達成する上でどうでもよいならば、縛らないのだ。だから一見気安く見える。しかし、彼の笑顔が氷の笑顔になったことがある。黒崎君が内海課長よりも企画七課の存続を優先しようとしたときだ。この瞬間、かれは明確に上下関係を見せ付ける。それは組織上の上下関係ではない。実力上の上下関係だ。その上下関係が暗に述べたのは、
「お前が敵に回るなら、お前をサポートしている奴らも含めて、粉砕する力が俺にはある」
だ。実際シャフトの専務は潰された。

彼は心理的な壁を作らないのではない。壁を意識させないのだ。壁の位置を部下の日常から遠いところにおいて、さらに壁に絵まで描いて、まるで壁が無いかのように感じさせる。しかし、壁のほうに向かって歩けば、そこに壁があるのははっきりしている。

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後藤隊長は「正義の組織の Leader」である。ただし、後藤隊長と同じペースで歩むことは出来ない、凡人の集団としての正義の組織の、Leaderだ。だから、彼は普段は昼行灯のように振舞う。原理原則、論理的帰結を直接説明しても、部下も、上司も、追従できないとわかっているからだ。正確には過去においてそれが通用せずに、ゆえに左遷されたことを理解しているのだ。

だから、彼は直接は組織を一体化することにかかわらない。組織を一体化させるのはあくまでも「部下の自律的な相互干渉」によって、だ。ただ、彼はその部下に微妙に影響を与える。それ故に組織から離れかけた部下はいつのまにか舞い戻っている。というかそもそも、組織から離れかけたことを自覚さえさせない。まるでトカマク式核融合炉の中にあるプラズマが磁場に閉じ込められるかのように。

緊急時における後藤隊長は、緊急時故に 説明をしない。彼は、彼の采配が正しいことを持って部下を統率する。でも統率するだけで本当に細かい判断は各人に任せたままだ。

部下が成長したり何かしようとすると、後藤隊長はその分 器を広げる。だから彼の部下はめったに後藤隊長の壁に出会わない。壁が動くのだ。そして拡大された能力も丸ごと、特車二課の能力にしてしまう。

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Manager と Leader という語感とは逆に。

Manager …後方より支配するもの… である内海課長は「集団の先頭に立って旗を振る人」だ。だから彼の支配できる世界が彼の組織の限界になる。内海課長の優秀さゆえにその組織の大きさは広大だが、無限ではない。内海課長を追い抜こうとすれば、足を引っ掛けられる。

Leader …先頭に立つもの… である後藤隊長は、「集団の最後に立って全体に行く先を示すもの」だ。羊飼いが全羊を見渡すために群れの最後尾にいるのと同じ。だから彼が問題視するのは彼の後ろに落ちようとする羊だ。前に進む羊は、前に進む分には問題視しない。脇にそれそうになると牧羊犬を放って群れの中に戻す。

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それ故に。内海課長は趣味全開で生きているのだ。後藤隊長は仕事をしているのだ。

でも内海課長は自分がやっていることを「悪役」だとは思っていない。
後藤隊長は自分がやっていることが「正義じゃない」と思っている。

この議論は、okky (2487)によって ログインユーザだけとして作成されたが、今となっては 新たにコメントを付けることはできません。
  • by baku3393 (32616) on 2010年11月19日 12時26分 (#1861390) 日記
    後藤隊長ってかっこいいなぁとパトレイバー読んでました。

    後藤隊長と内海課長の共通する所はユーモアのセンスがある所と、上司を振り回す事がうまい事でしょうか。
    --
    ---- ばくさん!@一応IT土方
  • by tasuke-do (41217) on 2010年11月20日 13時25分 (#1861854)

    とてもわかりやすくて良いと思います。勉強になりました。

    ただ一点、黒崎君は内海課長を引きずり落とそうとしているわけではありません。
    彼は内海課長の身を守ることを第一に考えて行動しています。
    そのことを彼は何度も言っています。
    しかし内海課長は、自分の身を危険にさらしても面白い方を取ろうとするので、
    そこで課長と黒崎君の間で齟齬が生じてしまうことがあります。

    • ただ一点、黒崎君は内海課長を引きずり落とそうとしているわけではありません。
      彼は内海課長の身を守ることを第一に考えて行動しています。
      そのことを彼は何度も言っています。

      うん。黒崎くんの行動原理について議論の余地がある、と考える人は多いようだ。黒崎くんについての描画量は少ない一方で、黒崎くんのせいで企画七課は危機に陥るという重要な役回りなので、多くの人が着目するからだろう。

      でも、その異論の多くは、黒崎くんが言ったことを信じる 事にその根拠を置いている。
      悪の組織の一員の行動原理を考えるにおいて、そんなアホな前提を置く奴があるかっ

      .

      そもそも企画七課は内海課長が世界中から引っ張ってきた選りすぐりの集まりだ。この場合、内海課長はどういう人間を集めると思う? 間違えないでね。「後藤隊長が人事権を握った場合にどういう人間を集めてどういう組織を作るか」じゃないよ?! 内海課長ならどうするか、だ。

      まず、発想の奇抜さと実行力を優先するよね。凡庸な人間では抑えつける唯一の手は 予算を絞る 以外手がないような奴…あまりにも独創的すぎて、組織そのものを崩壊させかねないような奴が干されているようなのが候補だ。

      次に、倫理観の強くない奴を選ぶ。倫理観というのはそもそも、
      「繰り返し囚人のジレンマ的に考えると妥当な行動を、単純化して バカでも実行出来るようにした 規則」
      と言い換えることができる。「正直であれ」なんてのはその典型だ。繰り返し囚人のジレンマは確かに正直であることの有利さを説明してくれるが、それは「繰り返し囚人のジレンマ状況にある場合は」有利なのであって、常に有利な訳じゃない。でも、そういう環境観察ができない普通の人に、いつ嘘をつくべきか判断するのは難しい。だから「正直であれ」となる。繰り返し囚人のジレンマ状態じゃなくなる瞬間のほうが少ないから。
      内海課長が欲しいのは、そんな倫理観に縛られない奴。つまり状況観察ができて、それゆえに倫理観に縛られない行動をとったほうが有利だ、という経験を何度もしてきているため、結果として倫理感が薄れている奴だ。この手の人間は与える情報を制御することで、倫理的にも、非倫理的にもなる。つまり、倫理感の薄い奴は、どのように行動するか予測できるのだ。

      倫理感の薄さは、「拘泥しない」事の裏返しでもある。たとえば頭の良い奴が、その発想から何か行動を起こして、結果失敗して謝る、としよう。倫理感の高い奴は実は、失敗しても拘泥し続けて傷口を広げる。研究者とかならいい性格かもしれないが、企画七課のメンバーとしてそれは困る。拘らず、すっと引けること。それは、味方の少ない組織において重要なフットワークだ。だから、内海課長は失敗した奴がいても、すっと引いた場合は許容する。それは彼が必要とする人材が持つ特徴そのものだから。

      .

      じゃぁ、内海課長はどういう奴を、企画七課の中でサブリーダーにするだろう?

      1) 統率力がある
      2) 内海課長の価値観を理解する
      3) 一定以上の知力と行動力があり、それゆえに自分の代わりになる

      こんな辺りじゃないだろうか?黒崎くんはこれらの条件に非常によくミートするよね。
      でも、これらの条件は全く同時にこのサブリーダーに常に一定のプレッシャーをかけ続ける。
      「今、俺の上司を裏切ってこの組織を支配するのと、この上司をサポートするのと、どちらが得か?」
      というプレッシャーだ。サブリーダー役は常にこの損得勘定を計算し続ける事になる。

      逆に内海課長はサブリーダーに「俺についてくれば得」という状態を見せ続けなくちゃいけない。

      .

      以上の事を念頭において。

      黒崎くんは普段、内海課長の忠臣として働いている。それは間違いない。
      ただし、それは「忠義心から」そうしているのだろうか? という問題がある。
      内海課長がそういう倫理感に基づいた行動を取る人を信頼する可能性は非常に低い
      一方で、そのような「倫理感に基づいた行動の結果です」という説明は言い訳として非常に使いやすく、内海課長はどんな言い訳を持ってきても「恭順を示した者」は許容する。
      そして、内海課長も黒崎くんも、互いが互いにどのような行動を取るのか判っている。

      この場合に。黒崎くんの「内海課長の安全を第一に考えて行動している」という主張は、常に信じて良いものか? それともそれは、裏切ろうとして失敗し、負けを認めたときの、自分の行動に対する言い訳に過ぎないのか??

      --
      fjの教祖様
      親コメント
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長期的な見通しやビジョンはあえて持たないようにしてる -- Linus Torvalds

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