yasuokaの日記: JIS X 4063の廃止 5
『NかMか』(漢字と文化, No.9 (平成18年11月), pp.5-8)の読者から、JIS X 4063は安岡孝一が廃止したのか、という趣旨の御質問があった。それはさすがにヌレギヌだ。私(安岡孝一)がJIS X 4063の「nn」→「ん」に関して快く思ってなかったのは事実だが、だからと言って、JIS X 4063を廃止したいと思ってたわけじゃない。このあたりに関して、当時、私がどう考えていたかを、ここに記録として残しておこうと思う。
JIS X 4063は『仮名漢字変換システムのための英字キー入力から仮名への変換方式』というタイトルではあったものの、現実には、ローマ字から仮名へのtransliterationに関する規格だった。その意味では、私がこの規格票の中で最も気持が悪かったのは、解説p.4にある
また,日本語の表紙の手段としてではなく,日本語の入力手段としてのローマ字については,何らの標準も存在しないのが現状である。
という一文だった。そもそも、ここでいう「表紙」ってのが何を意味しているのか、さっぱりわからない。それに、日本語の入力手段としてのローマ字ってのは、つきつめればローマ字から仮名へのtransliterationなのだから、ISO 3602のいわゆるstringent transliteration(厳密翻字)をretransliteration(逆転字)したものが、国際標準だったはずだ。ただ、現実のJIS X 4063は、ISO 3602の厳密翻字の逆転字のほぼ上位互換だったので、大きな問題はないように見えた。しかし、私がどうにも我慢ならなかったのが、JIS X 4063が「nn」→「ん」を強制していることだった。
たとえば「てんねん」を、ISO 3602に従ってローマ字に転字すると「tennen」になる。「tennen」をISO 3602に従って仮名変換すると「てんねん」になる。ところが、「tennen」をJIS X 4063に従って仮名変換する場合は、「てんねん」となるのは基本的に許されず「てんえん」になってしまう。つまり、JIS X 4063は少なくともこの一点においてISO 3602違反だった。じゃあ、ISO 3602の方を改正するのか、というと、そもそもISO 3602は、昭和29年12月9日内閣告示第1号『ローマ字のつづり方』にしたがっているのだから、内閣告示の改正にまで話がいきついてしまう。
けれど、私個人としては、JIS X 4063を廃止する必要はなく、単に「nn」→「ん」をオプション扱いにするような改正をすれば、それで問題はなくなるだろうと考えていた。ところが、日本工業標準調査会は平成21年12月7日の情報技術専門委員会で、JIS X 4063の廃止を承認してしまった。結果として、制定からちょうど10年後の平成22年1月20日をもって、JIS X 4063は廃止されてしまったわけである。
表記? (スコア:1)
たぶん、「表紙」というのは「表記」の書き間違いでしょう。 もっとも、「JYA」とか「CYU」とかいった変な表記が横行している現状を見れば、日本語のローマ字表記に標準が存在して、それが定着しているなんて、とうてい思えませんが。
JyouyouでMincho (スコア:1)