yasuokaの日記: モールスからテレタイプへ
松田裕之の『モールス電信士のアメリカ史』(日本経済評論社、2011年4月)を読んだ。私(安岡孝一)の専門分野と近いこともあって、結構たのしく読めたのだが、『文字符号の歴史 欧米と日本編』を引用しそこなっている個所がいくつかあって、そのあたりが気になった。たとえば、Alfred Vailがモールス符号を設計するくだり。
――さて、どの文字がすり減っているかな
ヴェイルは職人の活字箱を調べることで、文字の使用頻度を入念に確認した。活字の摩耗度からそれが判明するからだ。この調査をもとに、彼は文字と符号の組み合わせを決定する。すなわち、最も活字の摩耗度が激しい「E」には《・》、次に激しい「T」には《-》、その次に激しい「A」には《・-》というように、頻出度の高い文字ほど簡潔な符号で表した。(p.19)
Alfred Vailは、印刷所の活字箱の活字数と、活字の発注数は調査したが、活字の摩耗度をチェックしたという記録はない。というか、摩耗した活字はどんどん再発注されるので、活字の摩耗度など調べてもあまり意味がなく、各文字ごとの活字の発注数を調査すべきということになるのだ。しかも、p.25の図1-5で「オリジナル・モールス符号」と「コンチネンタル・モールス符号」が逆になってしまっているため、正直わけがわからなくなってしまっている。
一九一九年、印刷電信機メーカーのモーグラム社(一九〇七年にジョイ・モートンとチャールズ・グラムが創立)は、送受信機を一体化した《テレタイプ》を開発する。(p.224)
『キーボード配列 QWERTYの謎』にも書いたが、Joy MortonとCharles Lyon Krumが1907年10月5日に設立したのは、Morkrum(モークラム)だ。モーグラムじゃない。
『モールス電信士のアメリカ史』は、全体としてのストーリーは面白かったのだが、こういうアラが目に付きだすと、どうしても他の部分(私の専門分野以外の部分)にも問題があるのではないか、と思えてきてしまうのだ。もう少し細かいところにまで、気を配って書いてくれるといいのだが。
モールスからテレタイプへ More ログイン