
Torisugariの日記: 時計台と時計塔 6
夏目漱石の『倫敦塔』の気に入らないところを挙げるとすれば、まず、それは本の題名です。"Tower of London"は本当に塔なのでしょうか?『倫敦台』の方が的確な訳語だったんじゃないですか?誰が最初に訳したのかわからないので、漱石のせいとまでは言いませんが、重要参考人くらいには値すると思います。
そもそも、塔は卒塔婆の略語で、卒塔婆はストゥーパの音写です。中でも、地蔵・水蔵・風蔵・火蔵・虚空蔵からなる「五重塔」が典型例で、昔の人の墓のデザインは、球・円錐・円柱・直方体などを組み合わせて5つのパーツを積み重ねた形になってますから、ああいうのも塔でしょう。もちろん、現代の墓の横に立てておく木の卒塔婆もそうです。
塔と呼ばれる慰霊碑の例:
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Nyosenji4.jpg
ですから、「法隆寺の五重塔」は本来の意味の「塔」ですが、その中でもやや特殊と言えます。もちろん、私は「塔」は仏教用語に限る、と主張しているわけではなく、イスラム教のモスクにあるミナレットを「尖塔」と訳すのはいいと思いますよ。ケルン大聖堂の屋根にストゥーパのような宗教的な意味が込められているのかは知りませんが、あれだって塔でしょう。でも、要塞兼監獄のロンドン塔は塔ですかね?
開国前の日本にも、高い建物はありました。例えば、城や砦で物見をするために築かれる高い建物は櫓です。あるいは、屋根がついている立派なやつは天守閣、すなわち閣です。唐の李白が孟浩然を見送った時の高い建物は「黄鶴楼」、つまり楼ですね。こんなに字がいっぱいあったのに、なぜ先人はtowerの訳語に宗教用語の「塔」を選んでしまったのでしょうか。実に不可解です。あ、「台」は適当な例が思いつかないので、イメージがわかない人は『少女革命ウテナ』か『未来のうてな』をご覧ください。
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とにかく、昔は「時計塔」っていう言葉がなくて、時計のための高い建物はすべて「時計台」って呼ばれていたはずです。それも、そんなに遥か昔じゃないですよ。「時計塔」自体は英語で時計台を意味する"clock tower"の直訳になるので確かな初出はわかりませんが、色々調べてみると、2004年に発売されたゲーム・『Fate/stay night』に出てくる「ロンドンの時計塔」が、(重要参考人を超えて)容疑者に近い立ち位置にいます。しかもこれは、ある種のユーフェミズムというか、ビッグベンを「ビッグベン」と明記せずに架空の時計台としてゲーム内に持ち込むための婉曲表現(ややもすれば、意図的な造語)なので、「時計塔」自体は一般的な意味での時計台を表す言葉ではないようです。つまり、ホッチキスとかキャタピラみたいな側面もあるってことです。
「Wikipediaの時計台の履歴」を見ると、2007年には既に時計塔でも正しいと思い込む人が出始めているので、本当に2004年のゲームの影響なのか自信がなくなってきましたけど、やはりというか、2004年より遡れるものもなかなかないんですよね。
京都大学には有名な時計台があって、建物の正式名称は「百周年時計台記念館」、建物の前の広場は「時計台前広場」ですが、恐ろしいことに、公式サイトが「時計塔」呼ばわりです。
最初に「時計台」と言っておきながら、「時計塔」を織り交ぜるスタイル
http://www.kyoto-u.ac.jp/static/ja/issue/mm/jitsuha/2012/130222.htm
時計台の核ともいえる時計は、1925(大正14)年2月に誕生以来、今も現役で確かな時を刻み続けています。今回は、その歴史ある京都大学の「時計塔」の内部をクローズアップして紹介します。
時計台の時計を40数年間、修理・点検し続けてきた「時計台の主治医」、杉谷ムセンの杉谷鉄夫さんに、月に一度のメンテナンス(点検・修理)に同行させてもらいました。
メンテナンス用の入り口から続く、92段の急な階段を上ると、時計塔の心臓部にたどりつきます。高齢の杉谷さんにとってはここを上るだけでも、かなりの重労働です。
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ただ、時計台と時計塔に関して言うと、ゲームの存在は蟻の一穴に過ぎなくて、背景としては「台」という言葉が弱くなってきているんじゃないのかな、とも思います。
例えば、「見張り台」と「見張り塔」という言葉を比べてみて、あなたが後者の方が自然に感じるようになってくると、かなり深刻な事態を迎えていると言わざるを得ません。私のIMEだと、「見張り台」は一発変換できますが、「見張り塔」は変換候補にありませんから、「見張り塔」はまだなんだと思います。しかし、「時計塔」はすでに変換候補に入っていますから油断はできません。
台と言えば「滑り台」や「踏み台」ばかりで、見上げるような建物が台のわけはない、ということなんでしょう。「塔」より画数が少ないのがいけないんですかね。いっそ旧字に戻して「臺」にすれば、そびえ立つイメージが付くのでしょうか。「見張り臺」とか「時計臺」とか。
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私が思うに、最初に"sky scraper"を「摩天楼」と訳した人や、"clock tower"を「時計台」と訳した人のセンスは抜群で文句のつけようがないです。それに引き換え「倫敦塔」は残念ですね。
いつか、皆が灯台を「灯塔」と呼ぶ日もきっと来ます。本当に残念なことですけれど。
イマイチわかんない (スコア:2)
倫敦塔はおかしい、と言うかもっといい言葉があったんじゃないの?と言う意見
そりゃわかります。
しかしながら、
> いつか、皆が灯台を「灯塔」と呼ぶ日もきっと来ます。本当に残念なことですけれど。
これはなぜそんなに残念なんでしょう。
塔が「建物サイズ以上の細長い建物」
台が「細長くない物」
と使い分けられれて行くようになるのとすれば、
それがそんなに悪いとも思えないけどなぁ。
むしろなんでも名前だけで分かりやすくなっていくと言えるんじゃないですかね
実際京大の例では「時計台」と言う建物全体の中の「時計塔」と使い分けてるわけですし。
「台」が大きさの点でも形の点でもあいまいすぎるんじゃないすかね。
それが変わっていくのはおかしくないと思うけどなぁ
Re:イマイチわかんない (スコア:1)
いや、そもそも過去の遺産を考えると、
>塔が「建物サイズ以上の細長い建物」
>台が「細長くない物」
って分け方が無理なんですよ。忠霊塔はともかく、一般的な供養塔は普通の墓石とほぼ同サイズです。供養塔は別に五重塔のミニチュアじゃなくて、むしろ、中には入れる塔の方が例外です。本文に張ったリンクを見てもらえば納得してもらえると思いますが。
それに、灯台だけじゃなく展望台や天文台だって細長い建物です。『デジタル大辞泉』も、「うてな(台)」の第一義は「四方を眺めるために建てられた高い建物。高殿 。」としていますし、英語のtowerを「塔」と訳したという理由だけで、「towerに該当するものは台じゃなくて塔」、っていうロジックは気に入りませんね。外国にあるtowerは塔の場合もあれば台の場合もありますが、大抵の場合は台です。だから、私は明治期の訳語の選択ミスだと思ってるわけです。
Re:イマイチわかんない (スコア:2)
最初が間違ってたからそれを由来とする現在も間違っているのでダメ
そんな感じですか
数十年も経てば新しい意味になったと見なしていんじゃないの、
「元の意味」なんて会話のネタ程度のもんでしょ、
てのが私の考えですのでそこが違うんですね
成る程ねぇ
そりゃあ時計台といえば (スコア:0)
かの有名な日本三大ガッカリ観光名所をイメージするからじゃね。
http://www.geocities.co.jp/nihon318/story/gakkari/gakkari.htm [geocities.co.jp]
http://dic.nicovideo.jp/a/%E3%81%8C%E3%81%A3%E3%81%8B%E3%82%8A%E5%90%8... [nicovideo.jp]
https://matome.naver.jp/odai/2137453781106322101 [naver.jp]
http://chinobouken.com/tokeidai/ [chinobouken.com]
昔はともかく、今じゃ周りに高いビルが立っててイマイチという点では、東京タワーにも引けを取りません。
と思ったけど、書かれた時代的にはどうなのかな。
札幌市時計台 1878年,『倫敦塔』 1905年。
いちおう順序的には矛盾はないようだ。当時有名だったかまでは知らんけど。
しゃきーんしゃきーん (スコア:0)
ゲーム「クロックタワー」は1995年発売。
https://www.nintendo.co.jp/wii/vc/vc_ct/vc_ct_02.html [nintendo.co.jp]
いつしか土地の人々はこう呼び習わしていた。
CLOCK TOWER───────時計塔屋敷と……
当時もこの表記なのかは確認していません。
# 私的には、クロックタワー、イコール、シザーマンの出るゲーム。
ピサの斜塔 (スコア:0)
はいつごろから斜塔(日本語で)と呼ばれていたんだろう?