Torisugariの日記: オーバーシュートの言い換え案 11
「オーバーシュート」がカタカナ語であることが物議を醸しているので、言い換えをいくつか考えてみましたが、結論から言うと「(感染)沸騰」がいいんじゃないでしょうか。
「オーバーシュート(overshoot)」という言葉は"over"と"shoot"の合成語ですが、この"shoot"は射撃のことで、射的をするときに、的や獲物よりも上を撃って「弾が遠くに飛びすぎた」というのが原義のようです。そこから転じて「通り過ぎる、はみ出る」という意味が第一義となり、例えばwiktionaryでは例として「駐車スペースから車がはみ出る(overshoot the parking space)」という用例を挙げています。
一方、感染にオーバーシュートという言葉を使い始めた人たちは、これが金融用語から転じたものだと言っていますから、そちらも考えてみましょう。「オーバーシュート|証券用語解説集|野村證券」によると、「価格の行き過ぎた変動」で「短期的に実体からかけ離れた価格になる」とあります。ものごとには勢いというものがありますから、心理的な要因や並列的な機械的判断の都合上、「行き過ぎ」がおこってしまうのです。
しかしながら、感染の進行が「実体」より過大になることはちょっと考えられません。値段という「現実」があるべき値である「実体」とズレるのは、幾分と誤魔化しを含んでいるとはいえ、まだ納得の余地があります。でも、実際の感染者数という「現実」が本来感染すべき「実体」とズレているなら、信用ならないのは「実体」であって「現実」ではありません。値段はいつか「実体」に近づくことはあっても、感染者数が「実体」に近づくことはあり得ないのですから。そして短期的でもないでしょう。
金融のオーバーシュートをもう少し別の角度から考えてみましょう。ものの値段が「実体」に沿って推移するとき、上がるにしろ、下がるにしろ、想定の範囲内で相場が形成されます。しかし、売買に関わる人が多すぎると、相場形成がかえって「実体」から離れてしまう、言い換えると、上がり下がりの法則が「売り上げ」や「事業規模」のような変数とは連動しなくなってしまいます。このように面倒過ぎて理由付けを諦める状況をオーバーシュートというならば、やっと感染者の話と類比できるようになります。このような状況では「実体」よりもむしろ売買する人数の方が変数として大きくなりますから、「実体」から予想しようとすると非線形な振る舞いになってしまいます。値動きするからこそ売買参加者が増えて値段をつけるルールが変わってしまうのです。多項式の科学から微分方程式の科学になって、カオスが幅を利かす世界になってしまうわけですね。
このように、ある変数に対して線形な結果だと思い込まれていたものが急に非線形になるのは自然界ではそれほど珍しいわけでもなくて、相転移が絡めば日常茶飯事です。そう思いながら、感染者の増減を考えてみると、水の気化によく似ていることが分かります。
いま、液体の水を非感染者、気体の水を感染者として考えると、室温に近い状態で容器に入れた水を温めたときの気化は、主に液体と気体の境目、つまり水面からの蒸発によっておこるので、気化を抑えるには水面の面積を小さくするのが最も効果的です。同じ体積の器具でも、ビーカーと丸底フラスコではフラスコの方が蒸発が遅いのです。感染症対策で考えると、外部との接触を断つ水際対策になぞらえることができます。
一方、温度が上がってお湯がグラグラになるまで沸いてしまった場合、温度や圧力の不均一さ、ゆらぎによって、液体の内部に小さな気泡ができて、そこが新たな水面になってしまいます。感染症対策で考えると、これがいわゆるクラスタと呼ばれるもので、日本の現状でもあります。
最後に、お湯がボコボコになるまで沸いてしまうと、もう液体内のあらゆる箇所に気体が混じっています。水の蒸気圧が大気圧をオーバーシュートしてしまうと、どこが気体でどこが液体なのかを場所から予測することは出来なくなるのです。だから私はあえて新しい名前を付ける必要があるのなら「感染沸騰」と呼ぶべきだと思うのです。Wikipediaの「沸騰」によれば、唐ができる時に、民衆の間で不満が高まって、ついに内乱が各地でおきることを「天下沸騰」と言っているらしいので、この程度の暗喩は許されるでしょう。
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ところで、感染症は罹患した人がさらに罹患した人を増やすという、連鎖反応による拡大再生産的な要素を持っていますが、「沸騰」という語義にはそれを示唆する要素が込められていません。一般的に言って、水を火にかけるから沸くのであって、水を火にくべて燃えるわけではないのです。
しかし、この状況を的確に表現する漢字表現がないのか、といえばそんなことはなくて、例えば、核分裂した原子核の破片がさらに別の原子核に当たって核分裂を促し、その破片がさらに別の原子核へ……という状況と同じであり、「臨界状態」と呼ばれるものです。オーバーシュートの原義を尊重すれば、「臨界超過」や「臨界突破」とでも言うべきでしょうか。
自治体が「基本再生産数」という専門用語をよく使うのも、実際のところ連鎖反応でネズミ算になるとどうしようもなくなってしまうからだと思います。「オーバーシュート」は何が何からはみ出るのか、という点を冷静に考えると、再生産数が何らかの閾値を越えてしまうということなのでしょう。モデルとしては、臨界量を越えて集めるだけで勝手に連鎖反応が制御不能なレベルまで進むのと似ています。でも、迂闊にそんなことを言い出したらそれこそ世間が制御不能になってしまいそうですから、私は思いつかなかったことにしておきます。
むしろ、わかりやすく…… (スコア:2)
「感染者の増加の度合が最悪でもn次関数オーダーと予想される」ってのはどうでしょう……。
(そして、実は指数関数オーダーで増えてる)
そうじゃない (スコア:1)
この手の横文字使用の意図は
本質的な問題から思考を逸らせるためです
正しい対応は
くだらん言い換えなんぞせずに真面目に対処しろ
できないならできるやつを使え
それがお前の仕事だ
と指摘してあげることです
Re: (スコア:0)
同感!!!
沸騰www (スコア:0)
笑った
Re: (スコア:0)
オーバーフットー
カタカナでもいいね
素直に目標値(あるいは平衡値)を越えた量だと思った (スコア:0)
ついうっかり、「適正な感染数」の目標値があることを暴露しちゃったのかと。
Re:素直に目標値(あるいは平衡値)を越えた量だと思った (スコア:1)
それなら「予想外感染」とか「想定外感染」でいいよね。
まあ、専門家かよ言われるだろうけど、今と同じだから想定内
感染に糸目を付けない (スコア:0)
「目標値」ではなく「適正値」でしょうね。
それを制御不能なほどに逸脱してしまうと、治療が間に合わず医療崩壊。
日本語だと「糸目」が近いんじゃないかな。
https://www.weblio.jp/content/%E9%87%91%E3%81%AB%E7%B3%B8%E7%9B%AE%E3%... [weblio.jp]
「糸目とは、凧の表面に数本付けて、揚がり具合や姿勢を制御するための糸、
あるいはその糸を括るために空ける穴のことである。
糸目の付いていない凧が制御不能になり、風に任せて
そもそもの問題 (スコア:0)
批判すべきは「説明不足」な点であり、カタカナ語とかその言い換えの議論では無いと思います
日本の政治家はいきなり
「状況はオーバシュートしています。不要不急の外出は自粛してください」
と言い出します。意味が解りませんね
では言い換えて
「状況は沸騰しています。不要不急の外出は自粛してください」
と説明するとどうなるでしょうか?やっぱり意味不明です
このように言い換えは無意味です
「オーバーシュート」と言おうが「沸騰」という言おうが大差ありません。どちらも意味不明です
米国とかWHOは「危険度1(最低)」…「危険度5(最悪)」という感じで事前に状況を段階的に表現する言葉をちゃんと定義していて
今は「危険度5だから…」という言い方をします
一方で日本の政治家はいきなり「いまはオーバーシュートだから…」という説明をします。
それは最悪の状況なのか、今後どうすべきなのか、なにも解りません。
ちゃんと説明するならたとえば
「危険度は5段階で4の状態。今後5になるとお手上げになります。5を避けるために、外出は自粛してください」
というかんじで、現状と今後の目標をちゃんと示すべきです。
これは単語の言い換えでは不可能です。やるべきは状況の整理と定義、そしてその定義に基づいた明確な説明です
Re: (スコア:0)
専門家が専門家としての言葉で表現するのは当然なので、有権者に丁寧に説明するべき政治家がその役割を担っていないからこんなことになるのかなと。
Re:そもそもの問題 (スコア:1)
// くらいには考えてそう