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17408610 comment

phasonのコメント: Re:アト秒レーザーとは別 (スコア 1) 6

by phason (#4543549) ネタ元: この木何の木極端紫外光猪木

>最初から細かい液滴出すと冷えて固体になってしまうんだろうか。

液滴というか,気化した状態に近いです.
液滴を熱衝撃波で粉砕して気化させて,そこに次弾を打ち込む感じで.
※なぜ最初から気化した金属ガスを使わないのかというと原子密度が低いからですね.ある程度大きい体積を確保して吸収効率を上げつつ,いわゆるガスレベルに拡散する前を狙うことで密度が高くなり吸光度も高い.

>液滴を粉砕してから液滴(球体?赤血球型?)が冷え切る前に表面エネルギ以上のレーザ入力で粉砕するなんてできるのか疑わしくなってきた。

そっちは余裕です.
それこそ腐るほど行われているピコ・フェムト分光なんかでは後発パルスのディレイをピコ秒・フェムト秒レベルで制御できるわけで,EUV光源のダブルパルス法におけるディレイ(1 μsぐらい)はどうとでもなるかと.
※極短時間のディレイならミラー位置ずらすとかの光路長の制御でできますし(光路長をミリ単位でずらすとピコ秒単位でディレイを変えられる),μsレベルなら電子回路レベルでもディレイを設定できるんじゃないかなあ.

17407679 comment

phasonのコメント: Re:アト秒レーザーとは別 (スコア 1) 6

by phason (#4543114) ネタ元: この木何の木極端紫外光猪木

細かいところまでは把握していなかったので,せっかくの機会ということでいくつか文献見てみました.

>特異的に13~14nm波長を出す為にターゲットにスズを使っていると理解してるので

プラズマの単なる熱輻射ではあるが,どの波長が出やすいかは励起準位などの分布に依存する.このため,13 nm前後に対応する準位の多いスズを用いると効率が高い,ということのようです.
(理想的な黒体輻射と実際の物体の輻射の違い,というのと同じ話のようです)

>単なるプラズマ光源なら2回照射する必要ない気がする。

こちらに関しては,単発のパルスで強烈なレーザーを照射しても吸収効率が悪く,プラズマの生成・加熱に回る熱が少ないので,最初の一発目でいい感じのサイズに粉砕して本パルスを吸収しやすいクラスターサイズに変換,そこに本パルスを照射することで効率を上げる,という感じのようです.

17406546 comment

phasonのコメント: アト秒レーザーとは別 (スコア 1) 6

by phason (#4542537) ネタ元: この木何の木極端紫外光猪木

EUV光源の原理はアト秒レーザーとは別だったはず.
アト秒レーザーはパルス幅を狭くしないといけないのでトリッキーな現象を使用しているけど,EUVの光源はパルス幅は広くて良いからもっと輝度の高い光源が必要なので,集光したパルスレーザーで加熱した数十万度ぐらい?(確か)のプラズマを使用していたかと思います.要するに,(非常に温度が高いことを除けば)単なる黒体輻射です.

16729917 comment

phasonのコメント: Re:バルクプラズモンとパインズデーモン (スコア 3, 参考になる) 22

>質量と-電荷を持った電子が結合したとして、なぜ質量0、電気的に中性になってしまうのか?

電子の電荷がゼロになったり,ではなく,集団での励起状態の電荷がゼロ,と思うとわかりやすいかもしれません.
以下,ちょっと正確ではない話にはなりますが……

今回の例(などのPines' demon)では,異なる2つのバンドが存在し,しかも両者が独立であるような金属を考えます.妥当かどうかわかりませんが,原子のs軌道由来のバンドとd軌道由来のバンドが存在して,両者が混合せず独立に存在しているような場合です.

いま,原子が1列に並んでいる状況を考えます.

-〇-〇-〇-〇-〇-〇-〇-〇-〇-〇-〇-

ここで,s軌道由来のバンドに電子が入っているわけですが,最初の状態としては(均一な一次元鎖なので)全原子に同じような電荷密度で電子が入っていると考えるのが自然でしょう.同様に,d軌道由来のバンドにも均一に電子が入っているとしましょう.

s軌道由来のバンド:-●-●-●-●-●-●-●-●-●-●-
d軌道由来のバンド:-●-●-●-●-●-●-●-●-●-●-

ここで,ある種の励起状態として,「s軌道由来のバンドでは,奇数番目の原子上に電子が寄ってきて,d軌道由来のバンドでは逆に偶数番目の原子上に電子が集まる」というようなものを考えることができます.

s軌道由来のバンド:-●-〇-●-〇-●-〇-●-〇-●-〇-
d軌道由来のバンド:-〇-●-〇-●-〇-●-〇-●-〇-●-

この時の「電子の分布の,もともとの状態からのズレ」,もうちょっと具体的に言うと「奇数番目の原子上でs軌道の電子の密度を上げ&d軌道の電子の密度を下げ,偶数番目の原子上でs軌道の電子の密度を下げ&d軌道の電子の密度を上げ」るという「ズレかた」を「新しい粒子」とみなすことができます.

この新しい粒子がゼロ個の状態 → 全原子上でs軌道由来のバンドの電子密度が均一
この新しい粒子が1個の状態 → 奇数番原子でs軌道由来のバンドの電子密度+0.1,偶数番原子でs軌道由来のバンドの電子密度-0.1
この新しい粒子が2個の状態 → 奇数番原子でs軌道由来のバンドの電子密度+0.2,偶数番原子でs軌道由来のバンドの電子密度-0.2
(同様に,d軌道由来のバンドでも電子密度が対応して増減)

というような感じです.
では,この「粒子」の「電荷」はいくつでしょうか?
この「粒子」が増えても,原子上の電荷の量は変わりません.ある原子上ではsバンドの電子が増えるものの代わりにdバンドの電子が減るのでプラマイゼロ,別の原子上では逆にsバンドの電子が減るがdバンドの電子が増えるのでやっぱりプラマイゼロになるためです.
相変わらず「電子」は電荷を持っていますが,この「電子の分布の変化を粒子とみなしたもの」は,増えたり移動したりしても電荷の分布に何も影響を与えないわけですから,電荷を持たない粒子である,といえます.

質量に関しては,この励起を起こすのに必要な最低エネルギーがあるかどうか,という話になりますが,準粒子ではしばしば質量ゼロの準粒子=ギャップレスな励起(最小の励起に必要なエネルギーが無限小)の準粒子が生じます.
例えば原子の集団振動を粒子とみなしたフォノンとか,磁性体におけるスピンの揺らぎを粒子とみなしたマグノンなどちょくちょく質量ゼロの準粒子が生じます.
なお,質量ゼロというのは,無限に小さい力でとんでもない速度に加速できる,というよなことを意味するわけではありません.

16490735 journal
日記

phasonの日記: 高効率での水の光分解 5

日記 by phason

"Solar-to-hydrogen efficiency of more than 9% in photocatalytic water splitting"
P. Zhou et al., Nature, 613, 66-70 (2023).

気が付くと10か月ぶりの日記である.忙しかったとはいえ,ずいぶんとまあ書かなかったものだ.
(論文自体は読んでるし面白いものもあるのだが,こうやってまとめるには時間が取れないとなかなか難しい)

16489231 comment

phasonのコメント: Re:検索キー (スコア 5, 参考になる) 29

>これって今は-250度以下の極低温状態で素材をさらに冷やすのに使ってるヤツだよね

根本的な原理は同じですが,使う物質(というかスピン源というか)が違います.

極低温での断熱消磁では,スピン間にほとんど相互作用の無い核スピンなどが使われます.
極低温で使える自由度が少ないなか,極低温でも動くものということで核スピンが便利なのですが,個々のスピン源のもつ磁化が小さいためそろえるためには大きな磁場が必要になります.
なので,
  極低温から,さらに極度に低い温度を目指せる
  装置は大掛かり(超伝導マグネット使用)
という感じの冷却手段です.

今回の例のようなものは,この断熱消磁(と同じような原理)を室温からの冷却に使おうというものですが,そのまま核スピンの磁化を使うわけにはいきません.
というのも,温度が上がると熱によるスピンの揺らぎの影響が非常に大きくなるので,それに打ち勝ってスピンを揃えるためにはものすごく強い磁場が必要になるためです.
ではどうするかというと,良く用いられるのが「強磁性転移温度近傍の強磁性体」(等)になります.

この場合,使用するのは原子中の電子のスピンであり,もともとの磁化が核スピンに比べ桁違いに大きくなります.
(スピンはまあ回転に関係した量なので,重いものほど回転がゆっくりになる関係で磁化の大きさはざっくり重さ分の一になります.陽子は電子の1840倍ぐらい重いので,その分だけ磁化が小さくなります)
さらに希土類元素のf電子など,不対電子を多く持つ(&軌道角運動量も大きい)原子を用いることで,1原子当たりの磁化を格段に大きくします.

ただこれだけではまだ室温&普通の強さの磁場で使うには弱いので,もう一つ「原子の持つ磁気モーメント間の相互作用」を利用します.
強磁性体では,隣り合うスピン間に同じ向きを向けようとする相互作用が働きます.磁気転移温度よりも低い温度(=その物質が磁石になっている温度)だと何もしなくてもスピンが同じ向きに揃ってしまうわけですが,磁気冷凍ではあえて磁気転移温度よりも少しだけ上の温度で使用します.
この状態では,「スピン同士を同じ向きに向けようとする相互作用よりも,熱による擾乱が微妙に勝っている状態」ですので,磁場が無ければスピンの向きはバラバラです.
しかしここに少しの磁場が加わると,「磁場でスピンが同じ向きに向こうとする効果 + スピン同士を同じ向きにそろえようとする強磁性相互作用」が温度に拮抗(とか,温度に勝り始めたり)するため,ちょっとの磁場でスピンをドカッとそろえることが可能になります.
これを使うと,室温付近でも十分な冷却が可能になることが知られています.

ただし,この手法が最大の効果を発揮するのは「運転時の磁性体の温度が,強磁性転移温度より微妙に高い状態」に限られますので,広い温度範囲を一つの物質でカバーすることは難しくなります(温度が変わると,冷却効率がガクッと落ちる).
このため,ちょっとずつ組成を変えて転移温度の違う物質を積層したり,多段の冷却サイクルにして各段=動作温度の違う部分ごとに最適化した転移温度の磁性体を配置する,などの工夫が必要になります.

なのでこちらの装置は,
  超伝導マグネット不要でコンパクトなものも可能
  ただし冷却能力を上げるには,動作温度に合わせた磁性体等の開発が不可欠
という感じになります.

ここ2~30年ぐらいは結構各社いろいろ研究して,徐々に性能が上がってきているイメージ.
(中部電力とか三菱とか東芝もここ数年でいろいろ発表していた覚えが)
15833932 comment

phasonのコメント: 最近買い換えました (スコア 1) 2

by phason (#4350319) ネタ元: iPad Air2

最近iPad Air(第3世代)からiPad(第9世代)に買い換えました.
「そんなにスペック違わないし安い無印iPadでいいだろ」と思って買い替えたのですが,意外に映り込みが段違いで,個人的にはちょっと失敗したなあという感想です.
(ディスプレイの輝度をかなり落として使っている影響が大きいとは思いますが)

時間があれば,どの程度映り込みが気になるかを店頭で(画面輝度なども通常使用時と同じぐらいに設定して)比べてみても良いかも.

15813882 comment

phasonのコメント: Re:ダイエット法にある。 (スコア 1) 7

by phason (#4339087) ネタ元: おにぎりあたためますか

>レジスタントスターチ(難消化性でんぷん)って「老化」したでんぷんなのかな。

老化(β化)したデンプンも難消化性デンプンの一種ですが,難消化性デンプンにはほかにもいくつか種類があります.

通常のデンプンは分子内(もしくは隣接分子間)で水素結合することにより密に凝集していることが多く,この状態をβデンプンと呼びます。

βデンプンを高温で煮ると水素結合がほどけ間に水が入り込み,緩く詰まった状態に変化します.この状態がαデンプンです.αデンプンは分子鎖間に隙間(&水)があるため,消化酵素などが分子に接近しやすく,容易に消化されます.

αデンプンを比較的低い温度に保持すると,徐々に分子間や分子内での水素結合が形成されていき,時間とともにβデンプンに戻っていきます.これが老化です.
老化は低温ほど進行が速くなりますが,冷凍状態など水分子の運動が凍結する温度になると進まなくなるため,急速冷凍するとそれ以上の老化を防止できます.
(ただし急激に冷やさないと,冷える過程でそこそこ老化が進む)

一方の難消化性デンプンは,「理由はともあれ,消化・吸収されにくいデンプン」を指す用語です.
老化して酵素が接近しにくいデンプンもそうですし,細胞内にあるためなかなか消化されないものや,分子構造的に枝分かれの度合いなどが違って消化酵素の影響を受けにくいもの,化学的に修飾されており消化されない/されにくいものなども含みます.

15727688 comment

phasonのコメント: Re:溶融塩 (スコア 1) 102

by phason (#4287228) ネタ元: 再生可能エネルギーを砂に保存する技術

溶融塩蓄熱電池なんてのもありますね.
太陽熱発電(※太陽電池ではなく,集光した熱を使う発電)の蓄熱用として,中国とオーストラリアあたりですでに建設済み(だったか,今建設中だったか).
これにより,太陽熱発電を24時間ある程度安定して運用できるようになる,というもの.

砂・岩石を用いるものも,今回のもののように熱をそのまま使うのではなく,(効率は悪いけど)電気を熱に変換してを岩石に蓄熱し,それを必要時に発電に使うというものをドイツのSiemens-Gamesaが開発していて,今年あたりから商用化で受注とかそんなスケジュールだというニュースを読んだ覚えが.
(数年前にデモプラントが作られて動いていた,ような)

15717875 comment

phasonのコメント: 関連する説明 (スコア 5, 参考になる) 16

・状態密度
金属中の電子は,ある程度のエネルギー範囲中に無数の軌道が存在することから,実質的に連続準位(*)とみなせる電子状態となっています.

*分子などでは電子の入れる状態=軌道が離散的で,電子はとびとびのエネルギーしか取れないのに対し,金属中では次の準位までのエネルギー間隔が無視できるほど狭く,連続的になっている.詳しくはバンド理論を学ぶ必要あり.

このような金属中の電子の状態の表現のしかたとして,状態密度というものが使えます.
これはある狭いエネルギー範囲に,どれだけの状態(=電子が入れる席)があるか,というものを表した図です.例えば以下のような感じ.
金属中の電子は,あるエネルギー以下まで詰まっており,この「ここまで詰まっている」というエネルギーをフェルミエネルギーと呼ぶ(■が電子が詰まっている状態.□は電子が入れる空席はあるが,電子が入っていない状態).

上向きスピンの電子の状態数   例えばここがフェルミエネルギー
↑               ↓
|          ■    |
|          ■■   |
|  ■     ■■■■■  |      □□□
| ■■■  ■■■■■■■■■|□    □□□□□
|■■■■■■■■■■■■■■■|□□  □□□□□□□
------------------------------------------------------------->エネルギー
|■■■■■■■■■■■■■■■|□□  □□□□□□□
| ■■■  ■■■■■■■■■|□    □□□□□
|  ■     ■■■■■  |      □□□
|          ■■   |
|          ■    |

下向きスピンの電子の状態数

この金属に磁場をかけると,伝導電子のスピンの向きが磁場に対し不安定な向き(伝導電子のスピンが作る磁力が,磁場と反発する向き)なのか,その正反対の向きなのかによってエネルギーが上下するため,電子のスピンの向きによってバンドがズレてきます.

上向きスピンの電子の状態数   例えばここがフェルミエネルギー
↑                ↓
|             ■  |
|             ■■ |
|     ■     ■■■■■|        □□□
|    ■■■  ■■■■■■■|□□□    □□□□□
|   ■■■■■■■■■■■■■|□□□□  □□□□□□□
------------------------------------------------------------->エネルギー
|■■■■■■■■■■■■■■■■|□  □□□□□□□
| ■■■  ■■■■■■■■■■|    □□□□□
|  ■     ■■■■■   |     □□□
|          ■■    |
|          ■     |

下向きスピンの電子の状態数

この結果,伝導電子の↑の電子の総数と↓の電子の総数に差が出る場合があります.電子のスピンの向きは,電子を棒磁石とみなした時の向きに対応しますので,これは要するに伝導電子の作る磁力が偏る(=伝導電子全体として,特定の方向を向いた磁力が強くなる)ことを意味します.
特に↑の電子の総数と↓の電子の総数の差が非常に大きくなるようなバンド構造の場合(=もともとのフェルミ面付近に非常に大きな状態密度をもつ場合),伝導電子のスピンの偏りが生み出す磁場自体がバンドのずれを引き起こすのに十分な強さになる,「自分たちの作る磁場によるバンドのずれが,十分な磁場を作って自分たち自体を固定する」という状態になります.これがいわゆる鉄などの伝導電子による強磁性(遍歴電子による強磁性)です.

・ハーフメタル
自分自身の磁場などにより↑スピンの電子の状態密度と↓スピンの電子の状態密度がズレた場合,時としてフェルミ面付近(※実際の電流にかかわるのは,このフェルミ面付近の電子に限られる)で一方の電子のみが状態密度をもつ場合があります.こういった場合,伝導電子のうち片方のスピンの電子のみが電流として利用でき金属伝導を示し,逆向きスピンの電子にとってはフェルミ面がちょうどギャップのところにあるので絶縁体のように振る舞います.
こういう物質をハーフメタルと呼びます.

上向きスピンの電子の状態数   例えばここがフェルミエネルギー
↑                ↓
|              ■ |
|              ■■|
|      ■     ■■■■|□      □□□
|     ■■■  ■■■■■■|□□    □□□□□
|    ■■■■■■■■■■■■|□□□  □□□□□□□
------------------------------------------------------------->エネルギー
|■■■■■■■■■■■■■■■ |  □□□□□□□
| ■■■  ■■■■■■■■  |   □□□□□
|  ■     ■■■■■   |    □□□
|          ■■    |
|          ■     |

下向きスピンの電子の状態数

上図の場合,↑スピンの電子にとっては「バンドの途中にフェルミ面がある=金属」であるのに対し,↓スピンの電子にとっては「フェルミ面がバンドギャップの中にある=絶縁体」となります.
つまりこの物質に電流を流すと,↑スピンの電子のみが流れることができます.

このようなハーフメタルを使うと,単に電流を流すだけで「一方のスピンだけをもった電流」を取り出すことができます.
このようなスピン偏極した電流は,例えばトンネル磁気抵抗効果(HDDの読み取りなどでも使用される,上下の層の磁化の向きにより伝導性が大きく変わる現象)であるとか,もしかしたら将来実現できるかもしれないスピントロニクス素子(電子の電荷だけではなく,そのスピンも情報処理の要素として使用する素子)への利用などが期待されており,容易にスピン偏極した電流が得られるハーフメタル素子はそういった用途への利用が期待される材料になります.

・完全補償型ハーフメタル
上記の説明にあるように,「自分自身のスピン分極によりバンドがズレ,それによってハーフメタルになる」というメカニズムのため,通常のハーフメタルは強磁性体となります.
しかし強磁性体は物質全体として大きな磁化をもつため周囲に磁場が漏れ,当然ながら近くに置かれた別の強磁性体と干渉します(両方の磁場の向きが揃おうとするので,勝手に周囲の磁化の向きが変化する可能性がある).
では,外部に磁場の漏れない反強磁性体(↓と↑が同数あり,トータルでの磁化がゼロ)というのは不可能なのでしょうか?
単純に考えると,反強磁性体ではトータルでの磁化が無いのでバンドをシフトさせる駆動力が無く,実現できなそうに思えてしまいます.

確かに,すべての場所でスピンが打ち消されている反強磁性体でハーフメタルを作るのは無理なのですが,「物質の内部で,局所的にはスピンの偏りがあるけど,物質全体ではスピンが打ち消しあって磁化が無い」という物質なら作れることが以前から理論的には提唱されています.
例えばAとB,2種類の金属の合金を用いると,異なる金属元素からは異なる軌道が違う位置にバンドを作るので,Aの原子の部分では↑の電子密度が高く,Bの原子の位置では↓の電子密度が高い.でも物質全体ではトータルの磁化はゼロ,というものを作れます.
しかもこの場合,Aの原子の軌道由来のバンドは「↑の電子の作る磁場によるシフト」を起こし,Bの原子の軌道由来のバンドは「↓の電子の作る磁場による逆向きのシフト」を起こしますので,トータルの伝導電子の↑と↓の電子の状態密度に差が出ます.
(ということは,物質全体として磁化が無いのに,ハーフメタルが作れる)

こういった物質を使うと,漏れ磁場を気にせず,スピン偏極率ほぼ100%のスピン偏極した電流(=一方の向きのスピンをもつ電子だけからなる電流)を得ることが可能になります..

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ナニゲにアレゲなのは、ナニゲなアレゲ -- アレゲ研究家

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