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日記

taggaの日記: これって Urheimat 問題なのか 2

日記 by tagga

日本語記事が意味不明なので、 BBC を読んでみたけど、やっぱり意味が分からない 印欧語比較言語学は教科書レベルの知識しかないせいかな…… (というか、また……。前のよりまともだけど)。

やっていることは、基礎語彙を使った系統樹の推定で、 これででるのは、どうやっても系統樹にすぎない。 おそらくアナトリア語派、というよりヒッタイト語が、 系統樹の根本に近いという結果が出たのだと思う (登録してないから読めないし、 ヒッタイト語以外のアナトリア語派だとさすがに使える語彙が足りないと思うので)。 しかし、これは故地問題と直結しない。

その前に方法を確認しよう。 スワデッシュの基礎語彙と呼ばれているものがある。 ここで使われているのは 200語表と呼ばれている 207語のものである。 借用されにくいものとされている。 これらをもとに「突然変異」しながら広がっていくあり方を推定している。

しかし、日本語のものをみれば分かるように、 基礎語彙であっても、借用語もある。 そのため、借用と同根の区別が難しい場合がある。 例えば、英語の to dig 《掘る》は北欧からの借用である。 本来語にこだわれば除く必要がある。 ちなみに、対応する本来語は基礎語彙表にない to ditch 《溝を掘る》である。 このような例を区別して除くことには困難がある。 同系からの借用を同根とみなすと、分岐年代を新しくしてしまう。 このようなものが含まれてしまえば、年あたりの変異を小さくみつもることになるので、 系統樹の根本の年代を「古く」してしまう。

また、ヨーロッパ側の現代語では、規範形が載せられていることが多い。 このことは、古めの形であり、これを現時点でのものとすることは、 やはり系統樹の根本の年代を「古く」してしまう。

そして、資料が欠落しているものがある。 ヒッタイト語がまさにそうである。 この欠落に対して、どれだけ頑強な方法なのかという問題がある。 さらに、 ヒッタイト語は非印欧語のハッティ語からの借用が多いだけでなく、 印欧語のギリシア語とインド・イラン語派との接触が考えられ、 借用の可能性があるものをきちんと処理しておかなければならない。

;; このあたりの扱いがどうなっているのか、読んだ人は教えて。

さて、印欧語族の故地問題には仮説が複数ある。 その中でも強いのが、 クルガン仮説とアナトリア仮説の 2つである。

クルガン仮説は、言語考古学と歴史資料、考古資料での証拠が多い。 ステップ地域という場所という特定には、 動物相・植物相の語彙で再建される対象の地理的な分布による。 時代の再建される語彙に《車軸》、《ウマ》などが含まれることで、 考古学的にほぼ遡れる時点が決まる。

アナトリア仮説は何度も提案されている仮説である。 最近の版は考古学者レンフルーの見直しによるもので、 アナトリアから分岐して、ステップ地域へ、 そしてさらに分岐へというものである。 レンフルーの以前の説の主眼は、大言語族の話者は農耕民で、 じわじわと拡大していくというものだった。 この説の問題点は、歴史資料と整合性が弱いということである。 大多数の農耕民である非印欧語話者のハッティ人を 印欧語話者のヒッタイト人が戦車で征服した。

クルガン説にも弱点がある。 実は、場所や年代の特定に使った語彙がアナトリア語派の資料にあまりない。 アナトリア語派の言語資料で多いのはヒッタイト語なのだが、 ヒッタイト語は借用語が多い。 ハッティ語からのものが多いが、メソポタミアからのものもある。 そして《ウマ》も、 直接か間接か分からないが、 インド・イラン語派からの借用の可能性が高い形である。 つまり、印欧語文化の特徴である馬の戦車を使っていても、 これがアッシリアあたりからの文化的な借用であるかもしれない。 つまり、 ヒッタイト語を含むアナトリア語派の分岐はクルガン文化の前の可能性がある。

今回の研究が仮に正しいとした場合でも、 この最後のことの可能性が高まったということにすぎない。 基礎語彙はどこにでもある語彙であるし、 民族集団は短期間で大きく移動する可能性があるからである。 また、 アナトリア語派は印欧語の中ではいろいろ特殊なのであるが、 この特殊性が印欧語の古い形を残すものか、 アナトリア語派での改新によるものかで議論があったが、 語彙的には古い形を残すということのサポートにもなりうる。

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  • by Anonymous Coward on 2012年08月29日 18時27分 (#2221015)

    Supplementary Materialsを読んでみるというのはどうでしょうか。
    いや、うち、本文が読めるんで見てみたんですが、正直あまりにも分野外なんで何が新しい発見で何が決定打なのかさっぱりわかりませんでした。でもなんだかSupplementary Materialsには手法に関して2-30ページぐらいつらつらと書かれているようなので、参考にはなるんではないかなあと。

    • by tagga (31268) on 2012年08月30日 11時50分 (#2221384) 日記

      とりあえず読んでみましたが、新規性は数学的手法のようです。 言語データは既存のものでした。時間ができたら元ネタを確認してみます。

      ブラウン運動を言語の移動に当てはめていのかについては、 歴史時代における地中海東世界での移動状況からは疑問です。

      親コメント
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