Facebook 上でシェアされていた「
フェアトレードにある偽善どころではない問題」という投稿について、FB上でもちょっと議論してしまったので、自分なりの考え方をまとめておきます。
まずこの記事の筆者は「世界中にフェアトレードを強制して、価格PをP'に引き上げてみた」という仮定に基づいた主張をしている訳ですが、そもそもフェアトレードは現実の市場取引に非対称性がある事を前提として、その非対称性を緩和する方法として唱えられているのですから、「世界中にフェアトレードを強制」するというシチュエーションが無意味ではないでしょうか。フェア トレードの現実的な効果を考えるのであれば、非対称的な取引とフェアトレードが一定の割合で(かつ後者が少数派であるような現状を反映した割合で)併存している状況で検討すべきと考えられます。
またこの試算ではすべてのブラジルの農場がすべてのアフリカの農場より生産効率が高いと仮定されていますが、平均するとブラジル > アフリカであっても、個々の事業者の効率がすべてそのようになるとは言えなません(少なくとも記事の筆者はそのような説明も証明もしていません)。そうすると追加の余剰利益を得る事業者はブラジルだけでなくアフリカにも存在すると考えられます。
アフリカからブラジルへの労働力移転は困難としても、アフリカの近隣地域内であれば労働力移転はが可能である事も考えられ、そうであれば効率の悪い事業者から効率の良い事業者に労働力が移転するだけであって全体の雇用が単純に減少する訳ではありません。この試算はそうした可能性を一切無視して単純に雇用が減少するという結論に飛びついているのではないかと思われます。
さらに筆者自身が述べているように途上国の経済発展と貧困対策には政府開発援助や直接投資なども行われています。仮にフェア トレードにより生産効率の悪さゆえに雇用が損なわれるのであれば、その生産効率を高めるための援助と組み合わせる事も考えられます。そうした複合的な要素を無視している点も疑問です。
原理論的にフェアトレードのような商品取引市場外の規範を元に価格を引き上げる事が雇用の減少に繋がる誘因を持っている事自体を否定するつもりはありませんが、現実に行われているフェアトレードが現実の雇用を減少させると結論付けるには、この考察はあまりにも不十分と言えると考えられます。
結論として、この記事では現実のフェアトレードが現実の雇用を減少させているという証明は無いですし、フェアトレードがどれだけ拡大した場合に実際に雇用がどれだけ減少するのかという考察もありません。前述のような原理論的な要因となる可能性が示唆されているだけと考えられます。それをもって「フェアトレードは偽善」という主張をするのは行き過ぎではないかと考えられるのです。
以上、私見を述べてみました。