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y_tambeの日記: ダチョウ抗体入り納豆の無意味さと、コラーゲン入り食品への反論の拙さ 1

日記 by y_tambe
少し前に出たダチョウ抗体入り納豆の話。

いくら何でも、こりゃあかんでしょ、というくらいツッコミどころ満載な商品…と言っても、新型インフルエンザ流行時に抗体マスクがあれだけ売れたこの国では、わからずに買っちゃう人が多いんでしょうけどね。
以前のコメントでも、少し触れたけど、そもそもダチョウ抗体使うくらいなら、マスクに消毒薬染み込ませた方(ただし、既存商品の一部にあるようないいかげんな「抗菌剤配合」とかでなく、きっちりと効果検証した上での話)がよっぽど確実なわけで。「抗体」という言葉の響きや、そのメカニズムを示した「見てきたような絵」を見て、「何だかすごそう」なイメージを持った人が多かったのだろうけど、それはつまり抗体というものを良く知らない人が如何に多いかということの裏返しでもある。

最近、「美容目的でコラーゲンを食べても、それが直接、組織に入るわけではなく、『結局は消化されるから』から無駄」という反論が(ようやく)広まりつつあるみたいけど、納豆ダレに抗体を入れるのも全く同じ話。んなもん、胃の中でほとんど消化されますって。特に抗体の場合は、抗原結合部位(Fabの先端部分)の立体構造が特に重要なんだけど、その立体構造はpHによって大きく変わります。むしろ、実験室なんかだと、抗体を使って抗原分子を分取した後で、それを外すときに酸性の緩衝液で処理して外すくらい。なので、万一効果があるとしても、それはせいぜい「食べ物に、(そのまま食べると食中毒を起こすほどの量の)有害な菌が混じっており」「それに抗体が結合し、その除去が食道までに行われる」という、ありえないほどわずかな可能性でしかないわけで。

#それ以前にまぁ、真っ当な研究者が、今時「悪玉菌」なんて言うのはどうよ、というのもあるんだけど。

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ところで、引き合いに出した「美容目的でコラーゲンを食べても、それが直接、組織に入るわけではなく、『結局は消化されるから』から無駄」という話だけど……こっちに対しては、「ようやく」ここまできたけど、まだまだというか、随分と雑な反論だよなぁ…というのが正直なところだったり。いや、結果から言うと「ほとんど無駄」というのは、おそらく正しいのだけど、それは決して、こんなに雑な、「底の浅い」議論で結着付けられるものではないです。上述の抗体とか、他のタンパク質については、その程度の議論でも十分なんだけど、コラーゲンについてはそれだけでは不十分、というか。

そもそも、コラーゲンってのは、タンパク質の中でもアミノ酸組成がかなり特殊で、グリシンとプロリンの比率が異様に高い、というのがあります。

#全アミノ酸のうち、約3分の1がグリシンで4-5分の1がプロリン。特に、プロリンがこれだけ多いのはかなり特徴的で、ここらへんが、三重螺旋構造をとることなんかにも関わってるわけですが、まぁともかく。

従って、コラーゲン新生の際には、グリシンとプロリン、もしくはその前駆体になりうるアミノ酸が多く必要になるわけで。もし仮に、経口摂取したコラーゲンが消化されることが、これらのアミノ酸の量を増やし、さらにそれがコラーゲン新生を促進する、というようなメカニズムがあるのならば、「コラーゲンを食べても『結局は消化されるから』無意味」という反論は成立しないのです。

じゃあ「意味があるのか?」ということになるんだけど…まぁ正直言うと「判りません」、というか、直接的な研究データはありません。ただし、間接的なデータは出てます。そもそも医学分野での「コラーゲン新生」ってのは、別に「お肌ぷるぷる」にするためのものではなくて、創傷の治癒との関係から研究されているものです。で、その創傷治癒について言うと、食餌にプロリンを添加し補強した場合に効果は認められませんでしたが、アルギニンやオルニチンを添加した場合には、コラーゲン新生の増強が認められてます(Pubmed)。また古い文献では、アルギニン、3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸、グルタミンの添加が有効であったというものもあります(Pubmed

元々、プロリンはヒトにとっての必須アミノ酸ではなく、体内ではアルギニンやオルニチンから作られるのですが、アルギニンなどの添加によってコラーゲン新生が増強されたことから、コラーゲン新生にはおそらく、このプロリン合成経路が関与しているのではないか、と考えられてますが、詳細はまだ不明です。

まぁ、この「創傷でのコラーゲン新生による治癒の促進」というのと「お肌がぷるぷるになる」ってのが関係あるかと言われると、それは判らないし、また個々のアミノ酸添加ではなく、高分子であるコラーゲンを摂食・消化した場合の話というのは、別の話にはなるのだけど、少なくとも「コラーゲンを食べても、消化されたら一緒」と、一言で片付けてはいけないだけの特殊性というのが、コラーゲンという特殊なタンパク質には存在してるわけで(そして、抗体にはこんな特殊性はないわけで)。

なので、このあたりは割りかしデリケートというか、そこらへんを計り間違えて、「雑な反論」で片付けてはいけない問題だと考えてます。むしろ、きちんとした医学的なデータ(コラーゲン摂食と肌の張りだかなんだかとの関係を解明した学術論文)を要求することで、反論しなければならない問題なんだと。
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  • by Anonymous Coward on 2009年09月10日 23時41分 (#1637852)

    誰も科学的医学的に正しいかどうかに興味無いからかも知れない。

    「謳い文句通りのポジティブな効果が本当かどうか」という、
    ある種の反商業主義や自然食摂取主義な目的で重箱の隅をつついてるだけというか。
    しかし商業的には「効果には個人差があります」で片付く問題でしかない。

    個人的には申告している通りの成分が入っているなら、
    その人の体格に合わせた量を摂取する事で何らかの影響を及ぼすのでは?
    と思っているので同程度に直感的な否定では腑に落ちないですね。

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弘法筆を選ばず、アレゲはキーボードを選ぶ -- アレゲ研究家

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