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人工知能

yasuokaの日記: 人工知能の創発におけるQWERTY配列の歴史

日記 by yasuoka

『キーボード配列 QWERTYの謎』(NTT出版、2008年3月)の読者から、伊庭斉志の『人工知能の創発』(オーム社、2017年5月)を読んでみてほしい、との御連絡をいただいた。読んでみたのだが、QWERTY配列に関するガセネタがバラまかれていて(pp.150-152)、かなり閉口した。

われわれが利用するキーボードの英語表記の一番左上の行は、QWERTYとなっています。これは英語の単語入力としては最適ではありません。なぜこのようになっているのでしょうか? 一つの説は、タイプライターの黎明期(19世紀末ごろ)にタイプを打つ速度を落としてアームの衝突を防いだためとされています。当時の繊細な機械のアームは早すぎるタイピングでは干渉して壊れてしまいました。そのため、使用頻度の多いE、A、Sが打ちにくいポジションにわざと置かれました。

「アーム」を有するフロントストライク式タイプライターが登場するのは、私(安岡孝一)の知る限り、1891年6月の「Daugherty Visible」が嚆矢だ。これに対し、現在のQWERTY配列は、遅くとも1882年8月の「Remington Standard Type-Writer No.2」には採用されている。すなわち伊庭斉志の説を信じるなら、当時まだ存在していない「アーム」の問題を解消するためにQWERTY配列が作られた、ということになる。そんな馬鹿げた話はあり得ないと、私個人は考えるのだが、伊庭斉志の進化論では、そういうことが起こりうるのだろうか?

ところが1882年に現在の配列が提案されてから、QWERTY配列の一人勝ちです。これはなぜでしょうか? その理由として考えられるのは、QWERTY側がタイピング学校の創設をしてタイピストを訓練したことです。その結果多くの企業はQWERTYの訓練を受けたタイピストを雇うようになりました。

『キーボード配列 QWERTYの謎』の第4章でも示したが、当時のタイピング学校は、「Caligraph No.2」配列のタイピストも養成している。QWERTY配列だけに限定していたわけではない。そもそも、QWERTY配列が他のキー配列を蹴散らして普及したのは、1893年3月のTypewriter Trust成立に負うところが大きい。

アップル社が1984年に発売したApple IIシリーズでは、ビルトインスイッチとして、QWERTYからDSK配列のキーボードに切り替えるような仕様になっていましたが、効果がありませんでした。

「Apple II」の発売は、1976年5月のはずだけど。それとも伊庭斉志は、1984年4月発売の「Apple IIc」にあった「keyboard」スイッチ(「80/40」スイッチのすぐ右)のことを言ってるんだろうか。でも「Apple IIc」のあれは単なるソフトウェアスイッチであって、Dvorak(DSK)配列とQWERTY配列の切り替えにも使えるし、「2」のシフト側を「@」と「"」で切り替えるのにも使えるし、言語間の切り替えにも使える。つまりは設定次第なので、Dvorak切り替え専用というわけではないのだが、うーん、いったい何の「効果」の話をしてるんだろう?

というか、伊庭斉志がこの『人工知能の創発』で、なぜQWERTY配列に関するガセネタをバラまかなければならないのか、私にはサッパリ理解できなかった。↑のQWERTY配列ネタが、人工知能ネタにも創発ネタにも絡んでおらず、かなり浮いてしまっているのだ。進化経済学の話からの流れではあるものの、その後の章には出てこないし、さて、どういうことなんだろう?

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