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11200154 journal
日記

phasonの日記: グリーゼ581d?あんなモノありゃしませんよ 4

日記 by phason

"Stellar activity masquerading as planets in the habitable zone of the M dwarf Glise 581"
P. Robertson, S. Mahadevan, M. Endl and A. Roy, Science, in press (2014).
※DOIは現時点で未登録の可能性あり.

国際学会行かにゃならなくて時間が無いので簡単に.

恒星の多くは惑星を持つと考えられているが,それを検出するのは至難の業である.位置が近くしかも惑星が非常に大きかったりすれば反射や掩蔽を使って直接検出が可能になるが,そういう例は数少ないため,どうしても間接的な検出法が用いられることとなる.
その中で最もよく用いられているのが,ドップラーシフトを用いる方法だ.惑星が公転していると,恒星にもその反動として微妙な公転運動が生じる(惑星と恒星の重心周りを回る).すると我々から見ると周期的に近づいたり遠ざかったりすることになり,視線方向の速度が周期的に変化する.
この運動は恒星から出てくる光に対するドップラーシフトを引き起こし,輝線の周波数がどんな周期で変動するのかを観測すれば,その周期で公転周している惑星の存在が明らかになる,というものだ.

このような手法で発見された惑星の中に,グリーゼ581(確か20光年ぐらいの距離)を周回している惑星群がある.ここには6つの惑星があり,しかもそのうちの3つまでもがハビタブルゾーンにあり生命が存在する可能性がある,という事で注目を集めた.
ところがその後の研究(ベイズ統計使ったりなんだりで相関を調べたりいろいろ)により,fとgの2つの惑星(gはハビタブルゾーン内)は実在しない可能性が高いことが示されている.
今回報告された論文は,さらにd(これもハビタブルゾーン内)までもが実在しないのではないか?というものだ.

著者らが注目したのは,恒星の自転である.恒星が自転すると,その表面の活動の活発な領域なども一緒に移動する(ただし,緯度によりその角速度は異なる).活動の活発な領域とそうでは無い領域では対流速度が違うことが我々の太陽の研究から判明しているのだが,対流というのは,恒星の半径方向の運動である.従って,この対流もドップラーシフトを引き起こす.
著者らが示したのは,恒星の見た目の明るさの周期変動(=明るい部分がこっちを向く周期,つまり自転周期がわかる)を抜き出すと,それがグリーゼ581dの周期と一致する,という事である.この恒星の自転による周波数変動をさっ引いて再検討すると,グリーゼ581dの存在に関する信頼度が大きく低下することが示されている.一方,残りの惑星であるb,c(これはハビタブルゾーン内にある),eに関してはそのような変動は無く,これらは実在していると考えられる.

6つの惑星を見つけていたつもりが,気がついてみれば3つになったってのもまあなかなか何とも言いがたいものだが,この手の観測は非常に細かなデータを積み上げて結果にギリギリ手を伸ばしているわけで,ちょっとした事から様々なアーティファクトを生じやすく,解析には十分気をつける必要がある.
(当然,過去の著者らも十分な注意を払っているのだが,それでもこういったミスは避けられない)

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  • 今回、phason氏の日記タイトルがすごくキャッチー。

    SPACE.comの同様の記事 [space.com]によれば、グリーゼ581には2種類のハビタブルゾーンが存在していて、片方にはe,b,cが、もうひとつにはd,f,gが見つかっていました。このゾーンを調べるに使用したのはチリにあるHARPSとケックのHIRESでしたが、これらは高温の水素から発せられる光と、ナトリウムの光に焦点を当てて観測するものですが、これらは恒星の磁極の活動に非常に左右されます。太陽黒点は磁極のカタマリみたいなものというのを思い出していただければ、これらが恒星の自転といっしょに移動していき、それらを「惑星」と誤検出してしまったものではないか、という疑念です。

  • by firewheel (31280) on 2014年07月04日 15時49分 (#2633278)

    ニーヴンの小説に出てくる植民星を思い出した。

    探査機を使って植民可能かどうかを調べてから植民するんだけど、
    高い山のてっぺんだけ居住可能なプラトー星のマウントスッキザットとか、
    イースターエッグのようで帯状に居住可能地帯が広がるジンクス星とか、
    ユニークな植民星が登場していた。
    http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8E%E3%82%A6%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%8... [wikipedia.org]

    「なんでそんな住みにくい星に入植したの?」かというと、
    「探査機が偶然居住可能な地域に落ちたから」だという。

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長期的な見通しやビジョンはあえて持たないようにしてる -- Linus Torvalds

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