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phasonの日記: イズミット地震の解析による前駆現象の検討

日記 by phason

合成を進めようと思ったらあると思い込んでいた試薬が無かったので今日は一日論文読み.
専門外の分野だけれどもちょっと気になったので紹介.

"Extended Nucleation of the 1999 M W 7.6 Izmit Earthquake"
M. Bouchon et al., Science, 331, 877-880 (2011).

地震を何とか予知しようという試みは世界各国で行われているが,いまいち芳しい結果を得られてはいない.無論,様々な事実は明らかとなってきているのだが,それにより旧来の素朴な(というか今からしてみれば考えの足りない)モデルが多くの間違いを含んでいることが判明,新たなモデルの構築やそれに基づく予知の開発などが必要となっている……というか精力的に研究されている最中というか.
(そもそも予知は原理的に不可能なのではないか,とまで言う人もいるが)

さて,論文では1999年にトルコ北西部のイズミット周辺で起きた大地震の地震波の解析により,前駆現象の検討を行っている.
まず判明したことは,地震のおよそ44分前から前駆現象と思われる前震が多数観測されていることである.もちろんこういった前震は常に観測されるわけだが,今回の例で言えばその前震に非常に顕著な特徴があった.

まず,多数の前震の波形がほぼ完全にと言っていいほど一致しているのである.振幅はもちろん前震ごとに大きく異なるが,その波形は非常に似ている.グラフを最初見たとき,てっきり同じ振動を違う観測地点で捉えたものを列記しているのかと思ったほどそっくりである.これは前駆現象を抜き出す上で非常に有益な特徴となるし(同じ系列の震動のみを取り出し,他の震動とより分けてから経時変化などの検討が出来る),単なる微動と異なる特異な連続震動として注目に値する.
また,この同一波形の前震は加速的に頻度を増し,最終的に地震へと至る.

もう一点特徴的であったのは,震源位置が数メートル程度の狭い範囲に集中していることである.最終的に起きた実際の地震では100km以上の幅に渡って断層がずれたが,これに対し前駆現象と見られる震動では,実際の起きる地震の直前(それこそ数秒前)まで,その震源位置が測定限界程度の精度で全く同じ場所となっている.つまり,非常に小さな領域で断層の小規模なずれがその頻度を増しながら何度も起こり,それが隣に伝播した瞬間に大地震が起こっていた,ということが明らかとなった.

そしてもう一つ,(検出可能であった中で)最初の前震以後,低周波領域でノイズが顕著に増えていた.低周波微動に関しては近年,(その詳細なメカニズムには不明な部分も多いものの)大地震に関連しているのではないか,とか前駆現象として予知に使えるのではないか,として研究が進められているが,そういう観点からも関連が見いだせるかも知れない.

ただし,著者らも書いているように,こういった同じ波形の震動が繰り返されたり,といった事が観測されていない大地震も多く,どういった場合にこのような前駆現象が起こるのか,ということは現時点では不明である.
(下手をすると,この一回だけの特異な例だった可能性すらある)
しかし,こういった前駆現象がある程度普遍的であるなら,地震の発生をその数分前程度に予測できるわけで,被害を減らす役には立つ可能性がある.

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弘法筆を選ばず、アレゲはキーボードを選ぶ -- アレゲ研究家

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