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日記

taggaの日記: 確率空間なくして確率なし

日記 by tagga

風邪で寝込んでいたあいだにまた「2つの封筒問題」がどこかで話題になったらしいので、 前にもほぼ同内容を書いたけど、また書く。

;; 年内に片付けたいことが終らない……。

未開封型:

区別できない2つの封筒があり、 片方にはもう片方の2倍の金額(ただし、正)が入っている。 片方を選んで、1回だけ交換できる。 交換した方が得か、否か。

ひっかけの誘導(強調部が誤り):

仮にx円が入っていたとする。 このとき、もう片方が x/2 円か、2x 円で、 封筒が区別できないので、これらが等確率となり、 交換後の増減の期待値は (x/2 - x) * 1/2 + (2x - x) * 1/2 = 0.25x 円。 これが正なので、交換した方が得である。

条件つき確率の問題にするので、 その前にもとになる確率空間 (Ω, E, P) を作っておく。 標本空間として、合計金額と、金額が上の封筒 or 下の封筒かのフラグの対のものを考える。Ω = {(3x, s) | x は金額、s は上か下}。 事象の集合となる完全加法族は E = Pow(Ω)。 確率測度についての制約は P((3x, 上)) = P((3x, 下)) と合計 ΣP(ω)=1。

そうすると「x円が入っていたとする」ときの条件つき確率の標本空間は、 Ω'={(3x, 下), (3x/2, 上)} で、
P((3x, 下)|x円入ってた) = P((3x, 下)) / (P((3x, 下)) + P((3x/2, 上)))、
P((3x/2, 上)|x円入ってた) = P((3x/2, 上)) / (P((3x, 下)) + P((3x/2, 上))) = 1 - P((3x, 下)|x円入ってた) 。

P((3x, 下)|x円入ってた) を q と置くと、増減の期待値は、 (2x - x) * q + (x/2 - x) * (1-q) = x(3q-1)/2 円。……(*)

つまり、qが分からないので未定。 ということで、「仮にx円を引いた」と仮定する方針は筋が悪い。

とはいえ、未開封のときには、別ルートで楽に解答ができる。

合計金額が 3x 円とすると、 Ω''={(3x, 上), (3x, 下)} で、P((3x, 上)|合計3x) = P((3x, 下)|合計3x) = 1/2。 交換したときの増減は、 (x - 2x) * 1/2 + (2x - x) * 1/2 = 0円なので、損得なし。 これはどの合計金額でもそうなので、結局、損得なし。

つぎに開封型:

区別できない2つの封筒があり、 片方にはもう片方の2倍の金額(ただし、正)が入っている。 片方を選んで、1回だけ交換できる。 選んで開けてみたら x円だった。 交換した方が得か、否か。

このときの増減の期待値は (*) なので、不定。

例えば、開けて1000円のばあい、 Ω大尽={(3000, 上), (3000, 下)} でも、 Ω吝嗇={(1500, 上), (1500, 下)} でも、 問題と両立する。 大尽(q=1)なら交換で得、吝嗇(q=0)なら交換で損。

問題と両立するモデルが複数あって、それぞれ答えが違うので、 これは条件が足りない不定問題。

上の説明を理解する気がない人たちで多いのは、 「理由不十分の原理」《分からないものは等確率》をもちだす人たち。 問題なのは、 確率空間の公理を満たすような、 主観的確率の確率測度の決め方が「理由不十分の原理」だということを理解しないこと。 仮にP((3x, 下))=P((3x, 上))=P((6x, 下))=P((6x, 上))=P((12x, 下)))=……=ε>0 とすると、nε>1 となる自然数nがある(アルキメデス性)ので、 下から合計していくと、いずれ 1を越える。 つまり、ΣP((3x, s)) = 1 を満たさないので、 そういう確率測度がない。だから、そういう確率空間もない。

重なることも多いけど、理解する気がない人たちには、 上の説明が勝手に確率分布(確率測度)を決めているが、 自分は全部のばあいの「確率分布」を考えていると思い込んでいる人たちもいる。 けど、イメージできるのと、実際に作ることは別で、 条件を足さないと確率空間を作ることはできない。 ベルトランの逆説と同じで、 問題と矛盾しないで足せる条件がいろいろあることを理解して欲しい。 そのときに通常するのが《文字を使った一般化》で、 実際にやったのが(*)。

確率の問題は、 直感と反することが多いので、 数学や論理が得意な人でも確率だけ苦手という人はそれなりにいる。 だからこそ、念のために基本に戻って計算しなければならない。 それでも不安なら シミュレーションすべき。 とくにシミュレーションを実装するための条件が欠けていないかはチェックすべき。

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