「はやぶさ」、試料容器の格納・蓋閉めに成功 29
ストーリー by yosuke
リポDで乾杯だ 部門より
リポDで乾杯だ 部門より
ultra_hawk_1 曰く、
宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙科学研究本部(ISAS)の「宇宙ニュース」によると、探査機「はやぶさ」の試料容器のカプセルへの格納、及びカプセルの蓋閉め運用が成功した。
「はやぶさ」運用チームは、昨春の通信回復後に故障が発覚したバッテリの再充電を昨秋から今月まで継続したのち、1月17~18日に「はやぶさ」探査機内の試料採取容器を地球帰還カプセルに搬送、収納し、外フタを密閉する運用を実施しました。その結果、バッテリを使った形状記憶合金などの稼動部品は、すべて正常に動作したことが確認されました。
運用成功を伝える宇宙ニュースはかなりの長文で、リチウムイオン二次電池(はやぶさで初めて宇宙用が搭載された)の特性、試料容器の格納方法、予想された問題点、実際の運用など、細かく記述されている。
はやぶさのリチウムイオン二次電池は、11/26のイトカワからの離陸後の電源断の際に一部のセルが過放電を起こしていると伝えられていた。再充電は危険と言われていたが、地上試験や探査機上での試験により、生き残っている7つのセルに対して安全に充電する事が可能とわかった。その電力からの熱により形状記憶合金を変形させ、予定通りの蓋閉め作業に成功した模様である。
今後、2月~3月の間に始まる地球への帰還のため、探査機の姿勢制御プログラムなどの変更が行われる予定。
また、惑星協会のEmily LakdawallaによるBlogによると、という事で、「Z軸リアクションホール」と「キセノンコールドガススラスタ」と「キセノンイオンエンジンの偏向」によっての姿勢制御により帰還が行われる。That means attitude control will not be very precise and "the trajectory of return trip is expected to be fairly jagged (Prof Kuninaka, JAXA)".
訳: つまり、姿勢制御はあまり正確でありません、そして、「帰りの旅の軌跡は、かなりジグザグである」(ISAS國中教授、イオンエンジン担当)。
もちろん、試料容器に何も入っていない可能性もあるのだが、帰還・回収への関門の一つを無事に通過したという事を素直に喜びたい。
崖っぷち運用 (スコア:5, 興味深い)
のぞみの時も、今度のはやぶさも、かなりの深手を負ってからの崖っぷちに立った場面で
1ビット通信やイオンエンジンによる姿勢制御をはじめとして果敢にキリギリの運用を試みてますな。
計画通りに上手くやる事もそりゃ大切ですが、窮地に立ってもあの手この手を駆使しつつここまで
立ち回れている事は、すんなり上手く行く事以上の成果をもたらしていそうです。
米露だとアポロ13号やミールの有人宇宙計画でも崖っぷち運用をやってたりする訳で、その経験値たるや
物凄いんでしょうけどねぇ。
Re:崖っぷち運用 (スコア:4, 興味深い)
窮地に立ってもあの手この手を駆使しつつここまで立ち回れている事は、すんなり上手く行く事以上の成果をもたらしていそうです。
同感です。私は,ソースの宇宙ニュースが,とても良い記事になってるのが,その成果の一つだと思いますね。たとえば,追記の部分:
過放電を起こしたリチウムイオン電池は、決してご使用にならないようにお願いいたします。
こういう追記が付くのは,協力した古河電池からコメントが挙がっている証拠です。これを読むとチーム内部のピアレビューが健全に機能している印象を受けます。なかなかこうは,いかないものだと思います。
土鍋のフタを閉じるのにハラハラドキドキってのは,いくらなんでも・・・ とも思うんですが。
斜点是不是先進的先端的鉄道部長的…有信心
Re:崖っぷち運用 (スコア:1)
リアクションホイールでもこういう事ができたなら、3台中2台が使用不能なんてことにはならなかったのかな…と、つい思ってしまいます。
それができるメーカーのを使おうとしてたら、はやぶさは(予算不足で)飛び立つことさえできなかったのですけど…。
Re:崖っぷち運用 (スコア:5, 興味深い)
いやあ。ホイールだって数千回転とか「仕様の10倍で,ぶん回して使えないか?」と無茶な提案をされて検証してますし,がんばってるとおもいますよ。
それに,米製部品がブラックボックスなのは米国務省の輸出認可条件で,本来,曲がらない条件なんですが,今回は,故障原因の調査を合同にして,結果としてブラックボックスの中身を開示させています。これは,メーカーにとって,かなりのアクロバットだったと思います。
衛星部品メーカーは,トラブルがあるとFCCに対して説明責任が発生すると思うんですが,それをテコにして無理やり認めさせたんでしょうね。こういう実績も,将来的に米製部品を使うにあたって,かなり効いてくるんじゃないかと思います。
これまでなら,メーカーの単独調査で,JAXAは,必要なデータをホイホイ渡しておしまいってなってたと思うから,裏ではタフな交渉があったんじゃないかなぁと,推察します。
だいたい研究所の技官が,「謝辞」とか「共同研究」なんて言ってきたときに,メーカー的においしかった話なんて,これまであったでしょうか?
斜点是不是先進的先端的鉄道部長的…有信心
typo (スコア:1)
斜点是不是先進的先端的鉄道部長的…有信心
Re:崖っぷち運用 (スコア:0)
これからはこんな情報の穴が出ない様な、よりガチガチに防衛した契約を迫ってくるんじゃないの?
まだまだアメ公側が日本の足元を見られる段階でしょ。
Re:崖っぷち運用 (スコア:1, すばらしい洞察)
ただし、その成果は続くものがあって初めて意味があると思う。
ドキュメント化されて数十年後に掘り返されても、
たぶんその頃には役には立たない。
Re:崖っぷち運用 (スコア:0)
空じゃない (スコア:5, すばらしい洞察)
行って帰って来たという実績がつまってる。
Re:空じゃない (スコア:2, 興味深い)
KnowHowの詰まった本体を回収できないもんですかね。
#冬場にバッテリーが上がりかけた車のエンジン
#太陽が出て暖まっての一発勝負を思い出した
Re:空じゃない (スコア:3, すばらしい洞察)
回収するには、回収機がその猛スピードのはやぶさに追いつき、更にその猛スピードを殺す必要があります。
現在の人類の技術では、かなり難しい…というか無理でしょう。
(カプセルは直接大気圏に飛び込み、大気によりその速度を殺します)
仮にやろうとしても、はやぶさを数十機は送り出せるぐらいの費用(=手間暇)がかかるでしょうから、その手間暇で色々探査機とか作った方がより多くのモノを得ることができるかと。
#高速でフライバイするものの回収技術は、それはそれで価値があるでしょうけど。
Re:空じゃない (スコア:1)
軌道をやりくりしてスイングバイで秒速8kmぐらいに減速して
ローコストで地球の周回軌道にのせることはできないんでしょうか?
やりくりするには電池がたりないか?
Re:空じゃない (スコア:1, 参考になる)
>ローコストで地球の周回軌道にのせることはできないんでしょうか?
>やりくりするには電池がたりないか?
足りないのは電池ではなく推進剤だと思います。
真空中で無重力な空間では加速するにも減速するにも、
重さを持ったものを探査機から発射する必要があります。
電気に重さは無いので電気だけがあっても無意味です。
Re:空じゃない(オフトピ) (スコア:1, 参考になる)
>真空中で無重力な空間では加速するにも減速するにも、
>重さを持ったものを探査機から発射する必要があります。
光子にもエネルギーはありますので、電気さえあれば質量のある粒子を放出せずに
加速度を得ることも可能です。
#実際に粒子を真空中で保持したり動かしたりするために、レーザートラップなどが用いられています。
また少なくとも太陽系内(もしくは相当する恒星の近傍)では
太陽放射圧を利用したソーラーセイル [isas.ac.jp]なども利用可能ですので
極論してしまえば電気すらなくても相応の時間と装置だけで推力を得ることは可能です。
もちろん今回のはやぶさには不可能ですが。
Re:空じゃない(オフトピ) (スコア:0)
コメント元のかたはわかっていらっしゃると思うけど、補足。 「今回のはやぶさ」がイトカワに接近する時に実際に太陽輻射圧を使っていたりしますね。 [isas.ac.jp]回収に使う手段としては今回は無理だというのには同意です。
Re:空じゃない (スコア:0)
Re:空じゃない (スコア:1)
変わりますよ。スイングバイ [wikipedia.org]は、対象天体と重力を介して角運動量(公転速度)をやりとりする方法です。
減速なら「地球の公転速度が速くなって、はやぶさの公転速度は遅くなる」ことになります。系全体の角運動量は一定で変わらず。
はやぶさが地球より速い速度で公転していて地球に追い付く→スイングバイで減速→元より遅い公転速度で追い抜いていく
という流れになりますので、スイングバイによる減速を繰り返すためには、その後、また一周して地球に追い付く必要がありますが…
実際、はやぶさは往路では、地球を使ったスイングバイによる加速 [www.jaxa.jp]をしています。
Re:空じゃない (スコア:3, 参考になる)
そこから減速する手段がないので、本体の回収はほぼ不可能なはず。
試料容器のカプセルだけ耐熱仕様になっているので、地球に直接投下して
回収する予定だが、本体を地球の大気圏に突入させても、半分以上燃えてしまって、
燃えカスだけが地上に落ちてくると思う。
とりあえず太陽の周りを周回させておけば、遠い未来には回収して博物館に並ぶ日も
来るかもしれない。
I'm out of my mind, but feel free to leave a comment.
Re:空じゃない (スコア:4, 参考になる)
推進剤が足りなくなったのでカプセル投下後はそのままカプセル同様に
オーストラリア方面に落としてしまうことになりました。
Re:空じゃない (スコア:4, 興味深い)
安全をとるのならそっちでしょうけど、工学実験としてはカプセルの分離もしてほしいですね。
Re:空じゃない (スコア:0)
Re:空じゃない (スコア:2, すばらしい洞察)
そんなことできる金あるならはやぶさの成果を元に新しい探査機飛ばした方が何倍も有益、て意見に一票。
今の俺たちには他にまだやれること、やるべきことが山と残っているはずだ。
ボロボロになって尚頑張ってるはやぶさと、中の人の努力を無駄にしてはいけないはずだ。
Re:空じゃない (スコア:2, おもしろおかしい)
はやぶさに乗ってる俺のこと?(イトカワ星人)
Re:空じゃない (スコア:1, おもしろおかしい)
>はやぶさに乗ってる俺のこと?(イトカワ星人)
ああ…カプセル回収→イトカワ星人発見→瓶詰妖精と名乗る
という嫌なコンボが炸裂した
Re:空じゃない (スコア:2, 興味深い)
はやぶさの話題出るたびにこの画 [nature.mods.jp]思い出して、なんか切なくなる…
Re:空じゃない (スコア:0)
見捨てて新しいのを作るべきだ。
普通のプロジェクトと違って・・・ (スコア:2, 興味深い)
> 一連の作業は全て可動部品を使うためにやり直しができず、それぞれ一回で成功させないといけません。
> フタ閉め運用ができるチャンスは、太陽距離が1.5天文単位を下回り、かつ太陽と地球との衝の位置から探査機が外れ出した直後である、今年1月半ばの一週間だけ
「すいません、プロセスを端折ってミスしちゃいました。
もう一度バックアップからやり直します。
つきましては納期をもう一ヶ月遅らせてください。 (お金もください)」
なんてことは死んでも言えない状況ですな・・・。
自分たちが、いかに甘チャンか、思い知らされます。
宇宙は人を試す (スコア:1, 興味深い)
しかも満身創痍の探査機を約二年は運用しなければならないわけで、
それは全く気が抜けない日々となるでしょう。
改めて探査機のロバスト性能も試されますが、
それ以上に運用スタッフも試されますね。
はやぶさの航海と宇宙の船乗りたる運用スタッフの
無事と幸運を願っています。