KAMUIの日記: エボラウイルスの無毒化に成功。 20
日記 by
KAMUI
asahi.com の記事に依ると、東京大学医科学研究所の河岡義裕教授らの研究グループが、エボラ出血熱の原因となるエボラウイルスの遺伝子を操作して無毒化する事に成功したとの事。
増殖に関わる遺伝子を取り除く事で、性質はそのままで人間には感染しないウイルスが出来たという。 エボラウイルスを扱うにはバイオハザードを防ぐために特別な施設が必要になるが、無毒化ウイルスを使う事でより安全に実験が出来るため、ワクチンなどの研究が進む事が期待される。なお、今週の米科学アカデミー紀要(電子版)に発表される・・・予定なのだが、タレコミ時点ではまだ先週から更新されていない。
増殖に関わる遺伝子を取り除く事で、性質はそのままで人間には感染しないウイルスが出来たという。 エボラウイルスを扱うにはバイオハザードを防ぐために特別な施設が必要になるが、無毒化ウイルスを使う事でより安全に実験が出来るため、ワクチンなどの研究が進む事が期待される。なお、今週の米科学アカデミー紀要(電子版)に発表される・・・予定なのだが、タレコミ時点ではまだ先週から更新されていない。
増殖と感染の関係がよく分かりません (スコア:3, すばらしい洞察)
体内で増殖する前の少量の感染では害は無い、みたいな事じゃなくて、
そもそもヒトには感染しませんよ、ということなんですよね?
増殖する際に宿主をしっかり選択していて、
選択肢からヒトを取り除いたので感染しなくなったとかそういうことかな。
サルでは増殖するそうだけど、このサルをヒトが食べても大丈夫?
ウィルスを扱ったマンガといえばAmazon.co.jp: エマージング 1 (1) (モーニングKC): 本: 外薗 昌也 [amazon.co.jp]ですね。
女性研究者が日本ではウィルスの研究が出来ないので、アメリカに移って研究を続けた、という終わり方でした。
Re:増殖と感染の関係がよく分かりません (スコア:5, 参考になる)
asahi.comの記事では、「実験用のサルの細胞では増える」とあやふやな書き方をしているために、「ヒトでは増殖しないがサルの細胞でなら増殖する」というようにも読めてしまいますね。
中日新聞の記事 [chunichi.co.jp]の方が肝心の部分が正確に書かれています。
ウイルスが増殖するためには必要なVP30という蛋白があるわけですが、この新しいウイルスはその蛋白を作るための遺伝子を持っていません。
わざわざVP30蛋白の遺伝子を組み込んで発現するようにしたサルの細胞でなら増殖できる、というのが正しいです。
そういう細胞は自然界にはもともと存在しませんから、かなり安全に実験が行えるようになった、という話です。
Re:増殖と感染の関係がよく分かりません (スコア:5, 参考になる)
エボラウイルスは、アフリカの公衆衛生の懸案であり、潜在的な生物兵器でもあります。 これは、高い死亡率と認可済みのワクチン・抗ウイルス剤の少なさから、 危険レベル4の因子と分類されています。
エボラ病原のメカニズムへの基礎研究と、効果的な対抗策の開発は、 現在のエボラウイルスの高い危険レベルによって制限されています。
私たちは、VP30遺伝子(重要な転写因子をコード化している)の代わりに、レポーター遺伝子(遺伝子が発現しているかどうか見やすくするための遺伝子)を発現するエボラウイルスを開発しました。
安定してVP30を発現するベロー細胞系は、転写中の重要なタンパク質を提供していて、 この細胞系内の完全な複製サイクルへウイルスを閉じ込めます。
VP30遺伝子が不足しているエボラウイルスは、 野生のウイルスと同様の力価に育つので、 この補完的なアプローチは非常に効果的です。
さらに、VP30遺伝子を発現しているベロー細胞において、 7回のシリアルパッセージ(弱毒化)の後にシーケンス分析を行ないましたが、 野生のエボラウイルスと形態上の見分けがつかず、また遺伝的にも安定にしていました。
このシステムは、危険レベル4の施設外でエボラウイルスを取り扱う安全な手段を提供します。 そして、この致死的なウイルスに対して、 活発で複合的である大規模なスクリーニング作業と同様に、 エボラウイルスのライフサイクル上の重要な研究を促すでしょう。
アブストだけ翻訳してみました。この方面とは無関係の者なので、その点はご了承下さい。
ざっと纏まると以下のようになると思われます。
Re:増殖と感染の関係がよく分かりません (スコア:5, 参考になる)
PubMedにはまだのようですが、私の環境からはPNASのEarly access [pnas.org]で見られる要旨ですね。
細かいですが、いくつか。
>7回のシリアルパッセージ(弱毒化)の後にシーケンス分析を行ないました
これは継体培養のことだと思います。ウイルスを感染させた細胞から取り出した(増殖した)ウイルスを他の培養細胞に感染させる、
というプロセスを7回繰り返しても遺伝型、表現型ともに変化がなかった(=不安定な株ではない)ということだと思います。
># 活発で複合的である大規模なスクリーニング作業ってBOINCかな? この部分だと思いますが、多分これは製薬会社がやっているようなエボラウイルスに効果のある化学物質(compounds)の
スクリーニングのことかと思います。
日本の新聞社のサイトではよく分からなかったのでNature Web News [nature.com]で読みましたが、変異エボラウイルスのDNA配列を
作成してRNAに転写して作成したとのこと。
この方法では無毒化エボラウイルスを安定して維持できますが、これが世界中で使われると、今度は逆に「有毒化」エボラウイルスが
この配列をもとに作成されるかもという可能性もあり、しばらくは管理は通常のエボラウイルス株に準じるものになりそうです。
kaho
Re: (スコア:0)
>この配列をもとに作成されるかもという可能性もあり、しばらくは管理は通常のエボラウイルス株に準じるものになりそうです。
さすが俺様だ、即座に「箱入り令嬢の無毒化エボラたん」と「アルカトラス刑務所の有毒化エボラたん」に萌えキャラ変換されたが問題ないぜ。
Re:増殖と感染の関係がよく分かりません (スコア:3, 参考になる)
違う。
そもそも活発で複合的、という訳がおかしくて、原文は
>large-scale screening efforts for compounds with activity against this lethal virus
だから
"この致死性のウィルスに対する活性をもつ化合物の(=化合物を探す)大規模スクリーニング"
という感じ。
大規模スクリーニングってのは文字通りの意味で、多量のものから欲しい特性のものを選び出す作業全般って
だけの意味。
医薬なんかの現場で言うと、化合物を少量ずつ多種類のせられる容器に入れておいて、上から標的物質を
全部の部分に入れて、しばらく後に反応を見る(あらかじめ、反応があればわかるようにしておく)。
そうすると、特定の病原体/その部分構造等に反応する薬品をスクリーニングできるから、あとは有望そうな
ものに絞って、その発現機構を調べたり改良したりできるわけで、絞り込みが速くなる。
こんな感じの装置とか見たことあるんじゃないかと。
http://microarray.swmed.edu/p_protein.html [swmed.edu]
(個々の点の部分がちょっと窪んでいて、それぞれに異なる薬品が入っていて、そこに装置とかが標的物質を
マルチチャンネルピペッターを使って一気に流し込む)
この手の手法を使うと、数万とか数十万とかの化合物から迅速に数十種とかの候補が選び出せるから、とりあえず
頭を使わずに絞り込めて便利。
# 活発で複合的である大規模なスクリーニング作業ってBOINCかな? (スコア:0)
おそらくBOINCですな。
本当に「無毒」なの? (スコア:1)
それが「無毒化に成功」ということにはならないと思うのですが。
Re:本当に「無毒」なの? (スコア:1)
>
あくまで人間には感染しないという訳だから完全に無毒化したというわけではない様子。
逆に、人間以外の動物に感染して、そこから突然変異する可能性も否定できないわけで。
そして現在よりも毒性が強く、人間にも感染する恐れのあるものが誕生するかもしれません。
けど、研究する上では僅かながらではありますが、安全性が上がったことには違いがありませんので
今後のワクチン開発などに期待したいと思います。
えりか@意思のあるフランス人形
Re: (スコア:0)
ぞんざいに扱って構わないシロモノになった、というワケではないと。
Re:本当に「無毒」なの? (スコア:1)
何が毒かというのは「誰にとって」が重要と思われます。
これが生態系に紛れ込んでしまうとサルとかゴリラはたまったもんじゃないでしょうが。
Re: (スコア:0)
なるほどたまったもんではないでしょう
Re: (スコア:0)
きっと色々と忙しいんだよ。
次の更新記事を想像すると
「かゆ うま」
河岡義裕教授 (スコア:1)
Re:河岡義裕教授 (スコア:1)
論文の投稿は去年の8月ということですし,その間に人事も動くでしょうからこういったことはよくあると思います.
論文の著者欄から伺える一般的なことで言えば,コンタクトをとる場合のメールアドレスがウィスコンシン大になっていますので,
現在は(少なくともメインでは)そちらにいらっしゃるのだと思います.
貢献内容を見ると,実験を行ったのは医科研の方のようですし,この研究が医科研の研究と言って問題はないと思います.
ただ,実験のデザインと論文の執筆を行ったのがウィスコンシン大のチームのようですから緊密な連携の下で行われた研究だとは
思うのですが,分子生物学の論文だと直に手を動かした人がfirst authorになることが多いので,firstどころかsecondにも
実験をした人が入っていないのは「あれ?」と思いました.(私の経験では技官でもないとこういう扱いを受けないので)
メディアで取り上げられる場合は煩雑さの回避や自分に近い方を優先することから所属を一つしか言わないことは
よくあることで,特段に不思議とは思いません.
kaho
Re:河岡義裕教授 (スコア:1)
Re: (スコア:0)
あたりが考えられますが時事通信では関係者の記述が詳細 [jiji.com]ですね。(魚拓 [megalodon.jp])
しかし、こっちは教授名までは出ていません。
まあ、BBCの例からも考えられるのは、その国の人間にとって重要な点を優
Re:河岡義裕教授 (スコア:1)
時間稼ぎでしかないと思われるが (スコア:0)
当然のことながら、このような操作も確実に乗り越えてきますよ
Re:時間稼ぎでしかないと思われるが (スコア:1)
広まる前に宿主が死んじゃってそこで流行がストップするんだから。
そういう意味じゃ、エボラウィルスと同じ方向性のウィルスは、人類を滅ぼすことは無いんじゃないか?
エイズみたいに、宿主が掛かってると知らずに20年くらい生きて、その間に周囲に広めまくって、最後の最後にコロッと死ぬ、
ってのが、人類全体を滅ぼすのにはベターだと思う。