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phasonの日記: 良い奴はみんな早く死ぬ 4
"Strong contributors to network persistence are the most vulnerable to extinction"
S. Saavedra, D.B. Stouffer, B. Uzzi and J. Bascompte, Nature, 478, 233-235 (2011)
共生関係にある様々な種からなるネットワークというものは,自然界をはじめ我々人間社会の中にも非常に多く見受けられる構造である.そのためこういった自然界/人間社会の中のネットワーク構造は,物理学,統計学,社会学などの考察の対象となってきた.
このような共生関係にあるネットワーク中においては,時として相互作用する相手を非常に限定する事で,つまりニッチな場所に入る事により競争を避ける種が現れ,種の多様性が生じる.種の多様性の存在自体がネットワークの強靱性を増す事は各種の研究によりだいぶ明らかになっているが,一方で,わざわざニッチな状況に入る事でそのグループがどういった利益を得ているのか,というところはあまり明確ではなかった.
さて,今回報告された論文では,ネットワークへの寄与の大きさとその種が得る利益を測ろうとした研究から,思いもかけない面白い結果が得られた事が報告されている.
著者らはまず,研究の対象として顕花植物(でしたっけ?花が咲く植物ですね)と受粉に関わる昆虫からなる実在の20の生態系(個々の生態系は,多数の植物と昆虫からなる)のデータを用いた.彼らはまず,個々の植物や昆虫がどの程度その生態系の"多様性"に寄与しているのかを,生態系等のネットワークの複雑さを計算する最近(2008年)開発された手法を応用する事で計算した(……のだと思う.さすがに手法の元論文まで辿る時間がなかった).例えばある植物Aの寄与を計算したければ,まずそのままのネットワークの多様性を計算し,その後その植物Aの相互作用する相手をランダムに変化させた仮想的なネットワークをいろいろ考え,その多様性を計算する.そしてそれらを比較する事で,元々のネットワークにおけるその植物Aの寄与を算出するわけだ.
なお,ここで言っている"多様性"というのは元の単語で言えばnestednessであり,"多様性"という一語と一対一関係ではない(nestednessは多様性の一形態,のようなもの).が,以下では面倒なので全て"多様性"という日本語で代用する.
まあともあれ,そうして各植物やら昆虫やらのネットワークの多様性への寄与を計算すると,おおざっぱには釣り鐘型っぽい分布が得られる.多様性に大きく寄与するものもいれば,あまり寄与しないものもいる.で,極端に寄与するものや,極端に寄与しないものは少ない.まあ,ここまでは非常に当たり前の結果である.
次に彼らは,個々の植物や昆虫が,系の持続性(耐性,外乱等に対する安定性)にどの程度寄与しているのかを計算した.これも最近(2009年)報告された計算手法を利用したようである.計算としては,ある種Aがいる状況での耐性を計算して,その次にその種を仮想的に取り除いた系の耐性を計算,その差分が種Aの耐性への寄与と考える,というものだ.すると,系の多様性に大きく貢献している種ほど,系全体の耐性を上げている,という結果が得られた.
これもまあ,妥当な結果である.すでに,多様性が安定性の向上に寄与する事は知られているわけで,多様性を向上させる種ほど,安定性の向上に寄与しているというのはすんなりと納得できる.
ところが問題はここからだ.
続いて彼らは,こういった"多様性に寄与している種"が生態系からどの程度恩恵を受けているのかを計算するために,取り扱った植物-昆虫の生態系20個に関し,時間発展のシミュレーションを行った.手法は耐性の計算に用いられたのと同じ2009年の論文にあるものらしい.書かれてはいないが,おそらく著者らの想像としては,「系の安定性に寄与する種は,長生きする」というようなwin-win的な結果だったのではないかと思う.
ところが実際に計算を行ってみると,なんと「系の多様性・耐性に大きな寄与をしている有益な種ほど,絶滅の可能性が高い」という意表を突くものであった.他の種とは独立性が高く,生態系からもらう一方に近い種ほど絶滅しにくかったのだ.この傾向は,計算した20の生態系のうち,昆虫に関しては17の生態系で,植物に関しては20全ての生態系で見られ,どうも(計算手法が正しい限りにおいて)間違い無いようである.
驚いた彼らは,果たしてこの結果は自然界の植物-昆虫というある特定の系のみの特徴なのか,それとも共生的ネットワーク一般の特徴なのか?を明らかにしようと,大きく異なる対象にも適用してみる事にした.その対象とはニューヨークにおける服飾業界である.なんとまあ,変なところを持ってきたものだ……と思いきや,実は服飾業界のネットワーク構造に関しては,今回の著者らが2009年に既に調べており,そのデータが使えるから,という事らしい.
というわけで,ニューヨークの服飾業界におけるデザイナーと請負業者(これらが自然界で言う植物と昆虫の様なネットワークを作る)の15年間のデータを使い,前述の例と同様に個々のデザイナー/業者がどの程度多様性/ネットワークの耐性に寄与しているのかと,そして15年の間にそれらがどんなふうに絶滅(廃業)したのか,を調査した.前述の自然界の例では,種の絶滅はあくまでシミュレーションの中でしか計算できなかったが,今回は実データが使えるわけだ.
さて,そうして計算すると,やはり多様性に大きな寄与をしているデザイナー/業者ほど廃業の確率が高い,という結果が判明した.どうも,この性質は自然界だとか人間社会のネットワークだとか関係なく,共生的なネットワーク全般に言えるジェネラルな特性である可能性が出てきた.つまり,系を安定させている大事な奴ほど何故か死にやすい.良い奴は早く死ぬ.
(注:統計的性質を個人に適用してはいけません)
著者もこの結果はかなり意外だったようで,論文中にも「なんでそうなるのかよくわからん」と書いている.一応,あまり根拠のない単なるスペキュレーションとして,「多様性の維持に重要な位置にいる,多くの種と相互作用しているグループは,いわばいろいろな相手とうまくやっていかないといけないので束縛条件が多い.そういう束縛条件を満たすために余計なコストを払う事となり,生存性が低下するのではないか?」というものだ.それが正しいにしろ間違っているにしろ,今後まだまだ面白い発見がありそうだ.
対偶 (スコア:2)
とりあえずタイトルに脊髄反射で
長生きするのはみんな悪い奴!
(注:統計的性質を個人に適用してはいけません)
閑話休題
多数と相互作用を起こしているので外界の微小な変化に影響を受けやすいとすればそんなに不思議でもない気がする
Re:対偶 (スコア:1)
>長生きするのはみんな悪い奴!
論理的には正しくない結論なはずなのに,なぜか同意したくなってしまう!ふしぎ!
>多数と相互作用を起こしているので外界の微小な変化に影響を受けやすいとすればそんなに不思議でもない気がする
まあ確かにそれもあり得るんですが,別な考え方として,例えば昆虫と花の例で言えば,いろんな種類の花から餌をとってる昆虫だと,どれか1種類の花に何かあっても(他の花から餌をとることで)生きていけそうじゃないですか.そういう意味では何となく不思議な気もします.
と言ってもまあ,「多様性を生み出してる」ってところの計算は,単純に「いろんな相手と相互作用してる」というだけでは無いみたいなんでそう簡単な話でもないんでしょうけど.
#本当はその大元の計算方式も追うべきなんでしょうが,そこまでやる元気がない.
長生きしたけりゃ、悪どく生きろ (スコア:1)
こう書いた途端に当然のように聞こえるんだが…
多分「悪どい」の最大のポイントは、「生態系に与える以上に奪う」という所にあるのではないかと。
しかし、「生態系からより多く搾取する」には「ある程度寄与もしなくちゃいけない」。
しかし、「寄与しすぎて、その後いくら搾取しても赤字」なほど寄与しちゃいけない。
細く長ーく、ちょっと与えてはがっつりいただき、ちょっと与えてはがっつりいただき、常に「与える」量を絞ることで裏切られた場合の被害を小さく抑える。なおかつ、「がっつりいただきすぎて、他者からの攻撃の対象になっちゃうほど目立ってもいけない」。
そういうのを「悪どい」と考えるなら。悪どい奴ほど長生きだ、というのはそうなんだろうなぁ。
あぁ、私なんかいつも、世界中に貢献してしまうから。
それ以上にがっつり頂いて、長生きしないと (そっちか)
fjの教祖様
直感どおりかなあ? (スコア:0)
固定客に依存しない程度に客層を絞ったほうが、利益率も高くなり事業の継続性に優れるってことでしょうか。
固定客に依存すると変化に対応できなくなるし、客層を広くしすぎるとここの対応が疎かになるし、商売で感じていることに割とかなっている様な気はしますね。そこのところのさじ加減をどうしたらよいか、の最適値が数式で求まるとしたら興味深いですね。