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日記

phasonの日記: ナノワイヤーをスポット溶接 2

日記 by phason

"Self-limited plasmonic welding of silver nanowire junctions"
E.C. Garnett et al., Nature Mater., in press (2012).

近年ではナノワイヤーやナノ粒子と言ったナノ材料の製法もだいぶ確立し,安価に大量生産できるようになってきた.特に銀ナノワイヤーに関しては,polyol法と呼ばれる手法を用いることで径が揃った(数十nm程度,コントロール可能)5角柱状のナノワイヤーを大量に得ることが出来るうえに抗菌性や高い熱および電気伝導性を持つことから,微小化学センサー用ナノメッシュ,微細回路の配線,抗菌性表面加工など様々な応用が研究されている.

さて,ナノワイヤーをメッシュであるとか配線として利用しようとしたとき問題になるのが「ワイヤー同士をどうやって接合するか?」である.
(配線用途に関しては,「どうやって望み通りに配列させるか?」も問題だが,今はそれは置いておく)
もちろん加熱すれば二本のナノワイヤを溶接することも出来るのだが,ナノサイズで局所的に加熱するのは非常に困難である.かといって全体を加熱すると,表面エネルギーを下げるためにナノワイヤは容易にナノ粒子へとばらばらになってしまう(蛇口から落下する細い水流が,下の方で細かな水滴にばらけるのと同じ).そこで,ナノワイヤの接合部だけを十分に加熱し,他の場所が溶融するよりも早く,しかもしっかりと接合する溶接法の開発が求められている.
本論文では,銀ナノ構造体で非常に強く発生する表面プラズモンを使うことにより高速・安価・位置選択的なナノサイズでのスポット溶接を可能とする手法が報告されている.

さて,銀,銅,金というコインメタルと呼ばれる金属の表面においては,表面プラズモンと呼ばれる電気的な分極が非常に強い事が知られている.この表面プラズモンは光と結合することが出来る,つまりこれらの金属の表面では表面プラズモンの励起を伴う強い光吸収が起きる.通常の物体ではこの効果はそんなに効かないのであるが,ナノサイズともなれば体積に対する表面の比率が無視できないほど大きくなるため,これら金属のナノワイヤ(とナノ粒子)の光吸収の多くが表面プラズモン由来となる.特にナノ構造体が非常に接近している場合,例えば隣接する二つのナノ粒子であるとか,ナノワイヤー同士が接している部分ではこの表面プラズモンに由来する吸収が共鳴的に強めあい,数桁強い吸収を示す.
そこで著者らが考えたのが,この局所的な表面プラズモン吸収によりナノワイヤーの接合部のみを加熱する,という手法である.まず,基板上にナノワイヤーをぶちまけ,上からタングステンランプの光を照射する.ナノワイヤー自体の吸収はそれほど大きくはないのだが,偶然ナノワイヤが交差して重なっていた場所では両者の間のナノサイズの隙間(ナノギャップ)で共鳴的に非常に強い吸収が起こり,ランプの光を強く吸収し熱へと変換する.するとその部分が溶融して2本のナノワイヤーは一体化していく.十分接合が進めば,2本のナノワイヤーは「+」の形に融合するが,こうなるともうナノギャップが存在しないためそれ以上の溶融は進まず,冷えて固まる.これにより,加熱しすぎることもなく,ナノワイヤー同士の重なっている部分のみを選択的にスポット溶接出来るわけだ.

この加熱に要する時間は,30W/cm2程度の照射エネルギー密度でおよそ30秒程度らしく,かなりハイスピードな処理が可能である.また,加熱されるのはあくまでもナノワイヤーの接点のみであることから,例えば熱に弱いプラスチックのような素材の上でもこの処理を行う事が出来る.また接点に関しては非常に良く加熱されるので,完全に溶融した後に再結晶化して2本のナノワイヤーが一体化しており,接合部の強度も高く完璧な溶接具合である.著者らはデモンストレーションとして,有機半導体太陽電池の集電極として使用した際の特性を,熱処理(200℃で10分加熱)で作った銀ナノワイヤーメッシュと比較しているが,今回のプラズモン加熱法によるものの方がかなり低い内部抵抗が実現されている.また,通常の加熱では例えば20分加熱したものはナノワイヤーがずたずたに分解し特性が一気に悪化している(=加熱時間のコントロールがシビア)だが,今回の手法ではそういった問題は生じない.
またサランラップのようなものの上にスピンコート(分散させた溶液を薄く塗布することで表面にのせる手法)でナノワイヤをぶちまけ,光照射することでナノワイヤ同士を融合させ,サランラップの表面に張り付いた導電性の銀ナノメッシュを作成している.個々の配線(ナノワイヤー)は20nm程度の直径と十分細いことからほぼ透明であり(透過率90-95%程度),その一方でシート抵抗は580Ω/sqとまあそれなりの値となっている(決して低くはないが).メッシュ構造であるとともにナノワイヤーも細いことから,サランラップをぐにぐにと曲げたりしても柔軟に追従し導電性は維持されている.

手法としては実に単純である.銀ナノ構造は様々な用途があるため,そのメッシュやら何やらが低コストで高速に作れるというのは応用面からは意外に利用が広がる可能性もある技術である.

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  • 液晶パネルとかですぐ使えそうな感じですね、透明電極になるのなら。

    • 透明は透明なんですが,ITOなどの現在使われている透明電極に比べるとやや透明度が低く,抵抗自体はやや高いんで,特性としてはそこまで優れてはいません.

      例えばタッチパネル用にガラスに乗っけたITOなどですと,透過率95%前後で抵抗が100Ω/sq程度なのに対し,今回のものですと90%前後の透過率に対し500Ω/sq程度になりますので.
      むしろ低温で導電膜が作れるという利点を活かした何か(熱に弱いポリマー表面の改質)に向いてると思います.それが何に使えるかは分かりませんが.

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私はプログラマです。1040 formに私の職業としてそう書いています -- Ken Thompson

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