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日記

phasonの日記: メモ:磁性流体の作り方

日記 by phason

来年度の小学生向け化学教室でやろうと思ってる磁性流体の作り方のまとめ.
磁性流体というのはまあ,こんな感じの磁石にくっつく液体で,強めの磁石を近づけるとトゲが生える愉快なヤツです.
各地の中学・高校などでも同じ手法の実験が行われているのですが,時々うまくいっていないところもあるようなので,そういう方の参考になれば,ということで.
手法は基本的に
http://education.mrsec.wisc.edu/nanolab/ffexp/index.html
のページそのままです.
条件を変えながら予備実験を何度かやってみたところ,かなり再現性良く作れる事を確認.

必要なもの:
100 mlのビーカー(使い捨てのプラ製のものが楽)
スターラー(手でかき混ぜても出来ない事は無いが,スターラーを使ってよく混ぜた方がうまくいく)
攪拌子(ビーカーの内径にかなり近いサイズの方が良い.小さすぎると攪拌が足らず失敗しやすい)
FeCl2·4H2O
FeCl3·6H2O
水(蒸留水などの方が良い)
2 mol/Lの塩酸 20 ml(濃塩酸なら,3.5 mlの濃塩酸を希釈して20 mlにすればOK)
1 mol/Lのアンモニア水 50 ml(濃アンモニア水なら,4 mlを50 ml程度に希釈すればOK)
水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液([Me4N]+(OH)-25%)
ピペット(鉄溶液採取用×2,アンモニア水滴下用,テトラメチルアンモニウム水溶液滴下用で4本あった方がいい.使い回しも可能ではある)
ガラス棒
直径2cm程度の円形ネオジム磁石(必須ではないが,あると便利)

実験上の注意点:
アンモニア水などを使うので,眼鏡必須.手を汚したくない人は手袋推奨.磁性流体が周囲に飛び散るとなかなか落ちないので,あらかじめ紙なり何なりを敷いておくのも可.
ネオジム磁石などを使うので,磁気カード類などは事前にしまっておく事.ネオジム磁石の取り扱いには注意.強力なので,変なところで手を挟んだりする可能性あり.

原理:
酸性条件下でFe2+とFe3+を混ぜておき,そこにアンモニア水をゆっくり加えていくとマグネタイト(Fe3O4)のナノ粒子が生成する.このままでは磁性ナノ粒子同士がくっついてしまうのだが,ここにテトラメチルアンモニウムイオンを加えるとナノ粒子の表面(酸素イオンが露出)にくっつき,粒子同士が凝集するのを防いでくれる(いわゆる界面活性剤).
この状態だと,ナノ粒子はバラバラのまま水中を漂っており,しかも水との親和性が高いため周囲の水を引き連れて移動する事になる.磁石で外部から磁場をかけると,磁性ナノ粒子が磁場によって引っ張られるが,この時同時に周囲の水も一緒に引きずっていく.このため液体全体が外部磁場に反応するようになる.

実験:
(1) FeCl2·4H2O 4 gを2 mol/Lの塩酸10 mlに溶かす.なおFe2+は空気により酸化されて次第にFe3+になるので,作成したら蓋をしておき,出来るだけすぐ使う.ここでは10 ml作っているが,濃度さえ合っていれば,1 ml以上あれば良い.
(2) FeCl3·6H2O 2.7 gを2 mol/Lの塩酸10 mlに溶かす.濃度さえ正しければ,4 ml以上あれば良い.

(1)の溶液1 mlと,(2)の溶液4 mlを攪拌子とともに100 mlのビーカーに入れ,良く攪拌しておく.

攪拌しているところに,1 mol/Lのアンモニア水50 mlをゆっくり加える.ピペットで,全部で10分前後で滴下するぐらいのスピードが良い.ピペットから水流のように連続して注ぐのはダメ.あくまでも水滴状にきちんと分離したものがポタポタポタポタ……と落ちていくぐらいが良い.この時加える速度が早すぎたり,攪拌が不十分だと生成するマグネタイトの粒子が大きくなってしまい失敗する.5分以下はかなり危険.速く加えすぎると,最終的に出来上がるものが,磁性流体と言うよりも「水を含んだ砂鉄(=粒が大きい)」のようになってしまう.
その一方で,非常にゆっくり加えた場合(30-40分かける,など)はものすごく細かい磁性粒子になるため,磁性流体としては質が良い(ものすごくサラサラとした流動性で,磁石にも良くくっつく)のだが,見て面白いスパイク現象が現れなくなってしまう.
攪拌は,(ビーカーから飛び散らない範囲で)十分速く回転させておいた方がいい.その方が加えたアンモニア水が迅速・均一に混ざりやすく,きれいな磁性流体が出来る.

アンモニア水50 mlを全て加え終わったら,攪拌を止める.ビーカーから回転子を取り出す.回転子にはマグネタイトの微粒子がかなり付着しているので,溶液中で軽く揺すったり,洗瓶からの水で洗って磁性微粒子を落とす(ビーカー内に回収する).
なお,回転子は適当な濃度の塩酸に付けておくと,くっついたマグネタイトが溶けるのできれいになる(洗っただけではなかなか落ちない).

ビーカーの底に外からネオジム磁石を当て,マグネタイトのナノ粒子を底に集める.そのまま上澄みの溶液を全て捨てる.

磁石を外し,水を数十 ml加えガラス棒でかき混ぜてマグネタイトの粒子を良く洗う.その後またネオジム磁石を底に当て集め上澄みを捨てる.この洗浄作業を3回ぐらい繰り返す.

水を十分切ったら,マグネタイトの粒子に水酸化テトラメチルアンモニウム溶液を1.5 ml程度加え,ガラス棒でひたすら混ぜる.ここで十分混ぜておかないと,きれいな磁性流体にはならない.
しっかり混ぜると,それまで互いにくっついて塊になっていたマグネタイトが,水に溶けてさらさらの溶液に変化する.ダマが無くなってから,念のためにもうしばらく混ぜておく.

またビーカーの底からネオジム磁石を当てる.今度は粒子がはっきりとは分離せず,粘性の高い黒い液体(磁性流体本体)の周りに,やや粘性の低い同じく黒い液体(マグネタイトの量が少ない部分)がまとわりついたような状態になるので,軽く揺すってやって後者の薄い溶液を剥がし,捨てる.
残った「さらさらだけど磁石を近づけると強くくっつく黒い液体」が磁性流体である.
ここでもし,磁石を外してもさらさらな溶液にならず,粒状感のあるざらざらな溶液になっていたら失敗である(マグネタイトの粒子が大きすぎる).攪拌が不十分であったりアンモニア水の滴下が速すぎた場合,最初の鉄イオンのFe2+とFe3+の比率を間違えた場合などにそのような失敗が起きる.

遊び方:
ビーカーの外側から磁石を近づけると,液体がずりずりと動いてくっつく.当たり前であるが,ビーカーの内側に磁石を入れるとくっついてしまって磁性流体がとれなくなるので注意.
さらに,ネオジム磁石,サマコバ磁石などの強い磁石を近づけると,磁性流体がスパイク状に起き上がり,トゲトゲとした何とも愉快な構造を作る.合成時に使った直径2 cmのネオジム磁石などはかなり強いので,ぴったりとくっつけてしまうとスパイク構造がつぶれてしまう.ビーカー底面から2-4 cm程度離すと,きれいなスパイクが現れる.磁石との距離が近ければ多数の細かいスパイクが生じ,磁石を離して行くに従ってスパイクの数を減らしながら(そしてスパイク同士の間隔を広げながら)もより長いスパイクへと変化する(今手元の磁石でやってみたら,1 cm強程度の長さのスパイクは可能であった).

ビーカーに入ったままだと保管しにくいが,(ある程度の粘性があるとはいえ)液体であるので,フタの出来るサンプル管に移す事も可能だ.その場合,ある程度底面積のあるサンプル管(直径が3-4 cmぐらいあるもの)に移しておくと,スパイク構造などの観察もやりやすい.何日ぐらい保つのかは不明.

磁石で構造がグニグニと動く様子は無駄に興味を引くため,手元に磁性流体と磁石が揃っていると時間を浪費してしまうので注意.

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皆さんもソースを読むときに、行と行の間を読むような気持ちで見てほしい -- あるハッカー

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