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政府

yasuokaの日記: 戸籍における読み仮名の法制化 3

日記 by yasuoka

『戸籍』第992号(令和3年1月臨時増刊号)がやっと手元に届いたので、土手敏行「戸籍行政をめぐる現下の諸問題」(pp.5-54)を読んでみた。令和2年10月27日に開催予定だった第73回全国連合戸籍住民基本台帳事務協議会総会が、書面開催という事態になってしまったため、この講演も「誌上講演」という不思議な形で掲載されている。私(安岡孝一)の一番の興味は、戸籍における読み仮名の法制化だ。

次に【資料6】を御覧ください。これは,令和2年12月25日に閣議決定されたデジタル・ガバメント実行計画です。34頁の「5.4読み仮名の法制化の検討」を御覧ください。
「【現状】
システムにおける氏名の取扱いに当たり,漢字では処理が難しいため,読み仮名(カナ氏名)があることが望まれる。もっとも,現在読み仮名(カナ氏名)を公証する公簿は存在しない。
【取組方針】
2024年(令和6年)からのマイナンバーカードの海外利用開始に合わせ,公証された氏名の読み仮名(カナ氏名)に基づき,マイナンバーカードに氏名をローマ字表記できるよう,迅速に戸籍における読み仮名(カナ氏名)の法制化を図る。これにより,官民ともに,氏名について,読み仮名(カナ氏名)を活用することで,システム処理の正確性・迅速性・効率性を向上させることができる。」と記載されており,これを前提とした工程表(30頁)も示されています。
【資料6】の34頁の線表を御覧ください。線表では,令和3年3月頃まで設置準備,夏頃まで研究会における検討論点整理,秋頃から法制審議会における調査審議,令和4年度から法案提出,施行準備となっています。なお,法制審議会は,法務大臣が諮問を必要と判断した場合に諮問し,調査審議することになります。また,先程の34頁に記載されていましたとおり,令和6年からのマイナンバーカードの海外利用開始に合わせるように求められているところです。

さて、いくつか論点があるのだが、まずは、マイナンバーカードに氏名の「ローマ字表記」を載せるにあたって、その根拠をどこに求めるかだ。上記のロジックでは「戸籍における読み仮名(カナ氏名)の法制化」としているが、ローマ字とカナは違う文字だ。したがって、カナをローマ字に変換するための根拠が必要となるが、以前から何度も書いているとおり(これとかこれとかこれとかこれ)、現在の日本の法令では、複数の根拠が存在していて、どれを使っていいのかわからない。おおもとの『ローマ字のつづり方』(昭和29年12月9日内閣告示第1号)に一意性がないので、仕方ないと言えば仕方ないのだが、実装上それでは困る。

海外利用を本気で考えるのなら、マイナンバーカードに記載された氏名の「ローマ字表記」は、パスポートと一致している方がうれしい。ただ、パスポートの氏名表記は、ICAO 9303という縛りはあるものの、結構バラバラだ。たとえば「太田」さんのローマ字表記を例にすれば、「OTA」「OUTA」「OOTA」「OHTA」「ODA」「OUDA」「OODA」「OHDA」など、まあ色々と考えられる。だって、カナ表記の段階で「オウタ」「オオタ」「オータ」「オウダ」「オオダ」「オーダ」などが有り得て、それがさらにローマ字表記で分かれるわけだから、もはや一意性など望むべくもない。しかも、同じ戸籍の「太田」姉妹が、別々のローマ字表記を使っていることだって有り得る。

とすると、戸籍に「カナ氏名」を載せるよりは、各人ごとの「ローマ字氏名」を載せる方が、遥かにスジが良さそうだ。ただ、これはこれで、GHQの要求だった「戸籍のローマ字化」や「子の名づけにおけるローマ字使用」を、当時(昭和22年時点)の司法省が蹴っている以上、なかなか難しい気もするし、今だって法制審議会が許すとは思えない。そう考えると「法制審議会は,法務大臣が諮問を必要と判断した場合に諮問し,調査審議する」の一文は、非常に意味深だったりするのだが、でも、それは法務省だけでは難しくて、外務省とデジタル庁の両方に手伝ってもらわないと、うまく進まないんじゃないかなぁ。

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弘法筆を選ばず、アレゲはキーボードを選ぶ -- アレゲ研究家

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