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日本

yasuokaの日記: アイヌ語はSOVなのかOSVなのかOVSなのか

日記 by yasuoka

私(安岡孝一)の9月19日20日25日の日記の読者から、的場光昭『現代語で読む蝦夷島奇観』(展転社、2021年4月)を読んでみてほしい、との御連絡をいただいた。読んでみたのだが、言語に対する妄想が書き連ねられていて、正直なところワケが分からなかった。たとえば、38ページ。

 また言語の基本構造である語順については、S(主語)、動詞又は述語(V)、目的語(O)の語順によって、なじみの深い英語や中国語など多くの言語では、
 S+V+Oが基本である。日本語ではS+O+Vが基本である。
 現代アイヌ語学習ではどのような教育をしているかは知らないが、一八〇〇年当時からアイヌ語は、S+V+Oとなっている。

ワケが分からない。語順が問題になるのは孤立語の場合で、英語がSVOなのは屈折語の中でも独特だったりする。ましてやアイヌ語は、人称接辞が動詞の前後に付くタイプの言語なので、人称接辞が付きやすい場所(たとえば=anは自動詞の後に付くが、他動詞だと前に付きやすいのでan=と記す)はあっても、SOVとかOSVとかOVSとかいうわけではない。そう思いつつ、イヨマンテの祝詞の現代語訳を見てみたところ、かなりヒドイことになっていた(『現代語で読む蝦夷島奇観』169ページ)。

「我が神よ! 今に至って神と為る。今日兄(神となった殺した熊のこと)を送る。再び神として来年来てくださり、私がこれを執り行うことを神に敢えて申し上げます」

どこからツッコんだらいいやら。とりあえず「カモイニマヌワ」(kamuy ne manu wa)のneは「デアル動詞」だ。あえて訳すとしても「神である」であって「神と為る」ではない。というか、漢訳の「為神」にしても、「神たる」なのか「神と為す」なのか「神が為め」なのかは文脈依存だが、それでも「神と為る」という訳は有り得ない。そこが間違ってるので、そこから後は崩壊してしまっていて、目も当てられない。18世紀末のアイヌ語や日本漢文をちゃんと勉強してから、現代語訳に挑戦してほしいなぁ。

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