>質量と-電荷を持った電子が結合したとして、なぜ質量0、電気的に中性になってしまうのか?
電子の電荷がゼロになったり,ではなく,集団での励起状態の電荷がゼロ,と思うとわかりやすいかもしれません.
以下,ちょっと正確ではない話にはなりますが……
今回の例(などのPines' demon)では,異なる2つのバンドが存在し,しかも両者が独立であるような金属を考えます.妥当かどうかわかりませんが,原子のs軌道由来のバンドとd軌道由来のバンドが存在して,両者が混合せず独立に存在しているような場合です.
いま,原子が1列に並んでいる状況を考えます.
-〇-〇-〇-〇-〇-〇-〇-〇-〇-〇-〇-
ここで,s軌道由来のバンドに電子が入っているわけですが,最初の状態としては(均一な一次元鎖なので)全原子に同じような電荷密度で電子が入っていると考えるのが自然でしょう.同様に,d軌道由来のバンドにも均一に電子が入っているとしましょう.
s軌道由来のバンド:-●-●-●-●-●-●-●-●-●-●-
d軌道由来のバンド:-●-●-●-●-●-●-●-●-●-●-
ここで,ある種の励起状態として,「s軌道由来のバンドでは,奇数番目の原子上に電子が寄ってきて,d軌道由来のバンドでは逆に偶数番目の原子上に電子が集まる」というようなものを考えることができます.
s軌道由来のバンド:-●-〇-●-〇-●-〇-●-〇-●-〇-
d軌道由来のバンド:-〇-●-〇-●-〇-●-〇-●-〇-●-
この時の「電子の分布の,もともとの状態からのズレ」,もうちょっと具体的に言うと「奇数番目の原子上でs軌道の電子の密度を上げ&d軌道の電子の密度を下げ,偶数番目の原子上でs軌道の電子の密度を下げ&d軌道の電子の密度を上げ」るという「ズレかた」を「新しい粒子」とみなすことができます.
この新しい粒子がゼロ個の状態 → 全原子上でs軌道由来のバンドの電子密度が均一
この新しい粒子が1個の状態 → 奇数番原子でs軌道由来のバンドの電子密度+0.1,偶数番原子でs軌道由来のバンドの電子密度-0.1
この新しい粒子が2個の状態 → 奇数番原子でs軌道由来のバンドの電子密度+0.2,偶数番原子でs軌道由来のバンドの電子密度-0.2
(同様に,d軌道由来のバンドでも電子密度が対応して増減)
というような感じです.
では,この「粒子」の「電荷」はいくつでしょうか?
この「粒子」が増えても,原子上の電荷の量は変わりません.ある原子上ではsバンドの電子が増えるものの代わりにdバンドの電子が減るのでプラマイゼロ,別の原子上では逆にsバンドの電子が減るがdバンドの電子が増えるのでやっぱりプラマイゼロになるためです.
相変わらず「電子」は電荷を持っていますが,この「電子の分布の変化を粒子とみなしたもの」は,増えたり移動したりしても電荷の分布に何も影響を与えないわけですから,電荷を持たない粒子である,といえます.
質量に関しては,この励起を起こすのに必要な最低エネルギーがあるかどうか,という話になりますが,準粒子ではしばしば質量ゼロの準粒子=ギャップレスな励起(最小の励起に必要なエネルギーが無限小)の準粒子が生じます.
例えば原子の集団振動を粒子とみなしたフォノンとか,磁性体におけるスピンの揺らぎを粒子とみなしたマグノンなどちょくちょく質量ゼロの準粒子が生じます.
なお,質量ゼロというのは,無限に小さい力でとんでもない速度に加速できる,というよなことを意味するわけではありません.