yasuokaの日記: 日本の法令における「一日」と「二十四時間」 7
ネットサーフィンしていたところ、『東京五輪終わっても「サマータイム」恒久的運用へ』(スポーツ報知、2018年8月8日)という記事に、面白いことが書いてあるのを見つけた。
◆夏時間への切り替え方 導入初日を4月の最初の日曜日とした場合は午前2時に2時間進め午前4時に合わせる。夏時間が始まる日曜日は1日が22時間になる。10月最後の日曜日をサマータイムが終わる日とした場合は午前4時に2時間戻し午前2時に合わせる。この日は1日が26時間となる。
いや、それは、かなりマズイことになると思う。現在の日本の法令は、そのほとんどが「一日」を「二十四時間」だと仮定していて、しかも、同じ時刻が二度存在しないことを、大前提としているからだ。たとえば、戸籍法施行規則第二十一条第七号。
死亡又は失踪の届出については、死亡の年月日時分又は死亡とみなされる年月日
ここで「サマータイムが終わる日」の「午前2時5分」に死亡した人は、「最初の午前2時5分」か「2回目の午前2時5分」なのかをちゃんと記録しないと、死亡の前後関係が狂ってしまって、相続関係に問題が生じる。しかしながら、現在の電算戸籍システムは、そんな死亡記録が書けるようになっていない。戸籍法施行規則を誰がどう改正して、システム改修を誰がどうおこなうつもりなのか。そのための費用と時間は、誰が負担してくれるのか。
あるいは、戸籍法第四十九条第二項第二号。
出生の年月日時分及び場所
これも同じく「サマータイムが終わる日」の「午前3時」に生まれたりすると、とんでもなくヤヤコシイことになる。サマータイムを推進したがっている人たちは、そんな時間に子供が生まれたりしない、とでも思ってるのだろうか。
あるいは、刑事訴訟法第五十五条。
期間の計算については、時で計算するものは、即時からこれを起算し、日、月又は年で計算するものは、初日を算入しない。但し、時効期間の初日は、時間を論じないで一日としてこれを計算する。
月及び年は、暦に従つてこれを計算する。
期間の末日が日曜日、土曜日、国民の祝日に関する法律(昭和二十三年法律第百七十八号)に規定する休日、一月二日、一月三日又は十二月二十九日から十二月三十一日までの日に当たるときは、これを期間に算入しない。ただし、時効期間については、この限りでない。
この法律に出てくる「二十四時間」「四十八時間」「七十二時間」とかは、それぞれ「一日」「二日」「三日」と等しいことが前提になっている。でも「サマータイムが始まる日」は「一日」が「二十二時間」になってしまうし、「サマータイムが終わる日」は「一日」が「二十六時間」になってしまうので、そこの矛盾を誰がどう解決するのか。それは、現実の「拘留」という場面において、ちゃんと現場において機能するのか。
立法府においてサマータイムを議論する、というのは、本来は、こういう作業であるはずだ。既存の法令との矛盾を全て徹底的に調査して、どこをどう直せば全体として整合性が取れるのか。その結果、既存のシステムにはどういう影響が出て、それは改修可能なのかそうでないのか。それに要する費用と時間は、いったいどのくらいになるのか。そういったことをちゃんと議論すべきなのだと、私(安岡孝一)個人は思うのだが。
平成22年度 人口動態統計特殊報告 出生に関する統計 (スコア:2)
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&... [e-stat.go.jp]
表 21 に「出生数,出生曜日・時間・出生の場所・年次別」の CSV がおいてあります。
中身を見ると病院の出産時間帯統制、帝王切開などの外科的処置なのか、陣痛促進剤などの内科的処置なのかはわかりませんが、そういったものがありそうだと見えます。
それに対し、出産時間帯統制をしていない、あるいは統制をほとんどしていないまたはできないと想像している自宅や助産所は、(真の)午前中、すなわち日付が変わって正午を迎えるまでの出生数が多く見え、統計的にも差がありそうです。 私の能力では検定はできません。
危惧されている時間帯にはまさに出産がそれなりに多くなっていて、しかも取り扱いが正確であることをあまり期待できない自宅や助産所にそういう傾向が見られるので、出生時刻が後でどう問題になるのだ?と聞かれるとわかりませんが、記録としては信頼性がかなり落ちる気がします。
またこの二回目の二時以降をどう表現するのかも興味があります。 閏二時、閏三時のようにするといいかもしれませんね。
Re: (スコア:0)
「闇二時、闇三時」と空目して異世界っぽく思った。
「裏二時、裏三時」でも良いかも。
刑事訴訟法 (スコア:2)
引用されてる55条は全然影響受けないし(日で計算するものは日で計算するとしか言ってないから1日が24時間だろうが240時間だろうがどうでもいい)
時間で定義されてる他の条文はその時間通りに処理すればいいだけだし
Re:刑事訴訟法 (スコア:3)
えっと、そうなんでしょうか。いちばんヤヤコシそうなのは、「サマータイムが始まる日」の前日土曜日午後11時に何がしかの「抑留」を受けて「二十四時間」後が月曜日午前1時になっちゃう場合で、時間数を日数に変換しなきゃいけない局面(たとえば刑事補償法ガラミ)なんかは、私(安岡孝一)個人としては、かなり疑義があるんですけど。私のアタマが悪いだけなのかしら。
まあ、実は、そういうのもあって、日記のタイトルも「日本の法律」じゃなくて「日本の法令」にしたんですけどね。法律だけ見てると、トンデモない落とし穴があったりするので。
運用歴あるよね (スコア:1, 荒らし)
日本は1948年に夏時刻を制定した事があるよね。
そこ [wikisource.org]にはこうある。
第三条 この法律の施行に関し、時間の計算に関する他の法律の規定の適用について必要な事項は、政令で、これを定める。
これでよろしいんじゃないかと。
あるいは変更適用(読替適用)という立法技術があって、列挙すれば何とでもなるかと。
自然言語ベースで人間が動かすだけあってコンピューターシステムよりは柔軟。
既存システムについてはシステム改修の話であって法律の話ではない。
サマータイムの目的(日光の節約・省エネ・余暇時間の確保)に寄与しない部分に関しては冬時間を用いても構わないでしょう。
同じ時間が繰り返される不都合と、同じ時間が二つの表記で示される不都合のどちらを受け入れるかの選択になりますが、冬時間を主として夏時間を参考表記あたりが落としどころかと。
「夏時刻法」(昭和23年法律第29号)の関係政令 (スコア:5, 参考になる)
えっと、その「夏時刻法」(昭和23年法律第29号)に関する政令って、私(安岡孝一)の知る限りでは「夏時刻終了の際における労働基準法の特例に関する政令」(昭和23年政令第280号)くらいしか出てなくて、少なくとも「戸籍法」(昭和22年法律第224号)ガラミの政令は、結局、出せなかったと記憶してます。まあ、そのあたり、かなり揉めたので、結局、中曽根康弘が「夏時刻法」廃止案を提出(昭和27年3月26日)することになったわけですけど。
Re:「夏時刻法」(昭和23年法律第29号)の関係政令 (スコア:1)